好きな人と好きなようにすきなことをやっていられる権利というやつは、何よりも変えがたいことだ。
俺は思う。
いつものリビング。
時計の秒針と衣擦れの音だけが響くような静けさ。
一ノ瀬が船をこぐ俺に笑う。
「眠たい?」
舟こいでんだか、頷いてんだかわからない俺に、一ノ瀬はさらに笑う。
日曜、午後。
飯も終わって、洗濯日和。
縁側で日を浴びるのは暑く、ソファでうとうとするには頃合。
一ノ瀬が向かい側で本を読んでいる。
確か三十日が買ってきた流行の本。
三十日がすぐに飽きたといって投げ出して、それをちょっとずつ読んで、俺と三十日に内容を説明してくれる。
そういう穏やかな午後。
三十日が鬱陶しいくらいきいていた本の内容を聞くのはやめて、出かけていったのを見送り、一ノ瀬は俺の目の前で本を読む。
退屈になるはずの俺は、そんな一ノ瀬を眺めたり、携帯を弄ったり。
まぁ、退屈なのだが、一ノ瀬に構ってもらうほどではなく。
そういう時間も嫌いじゃない。
嫌いじゃないというか、好きだ。
のんびりしているうちに、眠気が襲ってきて…今、というわけだ。
「そっか、じゃあ、寝る?」
それには首を横に振る。
寝てしまっては、時間が減ってしまう。
こういう時間が。
このまま寝てしまっても、それはそれで幸せであるのだが。
「うーん…でも、もうダメそうだから」
ギシッ…とソファのスプリングが軋む。
隣が暖かい。
向かいにいなかったか?と思う前に、俺は意識を手離す。

「……」
「あ、おはよう」
「……、膝まくら、か?」
「最初は肩だったけど、寝づらそうでね」
日は暮れ、ハードカバーの本もすっかり読みきられていた。