別に手が早いからって怒りはしない。
しないけど。
「…なんで、そんなに手ぇ早いんやろか、おひぃーさんや」
「……男だから?」
現在は電力で走行、昔から縦横無尽に大陸を走る線路を行き来する人気者…最近は魔法で走る24時間自動走行型なんていうやつもある。
しかし、変わらず名前は電車。と呼ばれる乗り物の中。
庶民の味方価格の乗車賃であることや、遠方にいくのに便利であるためよく使われるその中。
そう、人がいっぱいいる中。
むしろぎゅうぎゅうと押し込められてるくらいの中。
ケツを触る痴漢の一人や二人、大変嘆かわしい限りだが、いるだろう。
まぁ、異性の。普通は異性のケツを触るんじゃないだろうか。
男に触られて、ああ、うん。ケツに変な感触。みたいな気分で、一瞬呆然。
俺だって人間だ。それなりに未知との遭遇、コワイ!といいたいところだが、ケツを撫でられるだなんて経験はそうあって欲しくない。
目の前の恋人には…まぁ、仕方ない。
だが、この痴漢も運がない。
俺のような荒事には慣れきっている人間のケツなんて触っても、怖い!というより、ケツさわっとるやん。なんや、ハァハァとかしよるんか?ないわー…とか思いながら、まず間違いなく足を踏む。骨を折らないように絶妙な力加減。ケツを触る手をあっという間に捕捉。
痴漢、ダメ絶対。
と笑ってやる。
とまぁ、そこまでは順調にやったわけですが。
目の前にいた恋人が非常に微妙な顔をされたわけです。
訳すると。
「だいたい…キョーはなんで俺以外にさわられてんだ?」
だったわけで。
知るかよ。不可抗力だよ。
といったところで、そういうことには理不尽で、おかしな頭の回転をなされるというか、面白半分というか。面白半分なんだろ。痴漢されたことに対しても、微妙な気持ち半分、何やってんのって爆笑したい気持ち半分なんだろうよ。
そんな理由で、今、俺と一織の攻防はなされているわけだ。
まずは一織の攻撃。
手前から後ろへと腰辺りをって、触り方が非常にヤラシイ!
「こんなところで何しよるんですか」
「相性の判断?」
思わず手加減ナシで金的を狙う。
膝蹴りは見事、もう片方の手で押さえられる。
この満員電車の中、見事なバランス感覚で…って、こんな状況で運動神経発揮するな。
しかし、こんなところで何かあってはたまらない。
何せ、相性は…抜群なので。
そして、やつの手は的確に攻めてくるので。
こういうときすら容赦しないというか。面白半分で喘いだら恥かしいだろうなとおもってやってるのが見え見えですが。おま…喘がすぞ?
とかなりながら、やつの手を叩き落す。
これも、容赦なくやりました。
「キョー…」
「なんや?」
「大人しく」
「本気でいうとらんやろ」
「…まぁ、こういうのも込みでやってるからな」
「くっそ、自分、ほんまたち悪いで」
なんせ一回ヤるのに、一暴れして攻守を決めるようなかんじでやっているから。
いや、もちろん雰囲気でもってくこともあるんですがね!
「こんな場所やなかったら、もうちょっとその気にならんでもない」
「ハッ」
鼻で笑われました。
結構嫌がらせにかける精神というやつが半端ない。
でも、そんなところも嫌いではないので。
ぐぐっと顔を顔の横に寄せて、耳をパクッと咥えると、また恋人が微妙な顔をしたのがわかった。
「てめぇこそ、たち悪ぃよ」
「めーんご」
「…くそ」
あ、若干本気でその気になられてしまった。
これは電車どころじゃないぞ。途中下車も否めないかんじになってきた。
こちらの顔があちらの顔に近いということは、あちらもこちらの顔に近いというわけでね。
やーらしく、耳の裏を舐める、感触が…
「……、ひぃ、やめよか」
「下車」
「ちょぉ…あと三駅で着くしほら」
抗議は、既に、声でなく、ガリッとかまれた首筋になされた。
「イッ…」
おそらく傷になったそこを、一織が舐める。おい、電車!電車で盛るな!
「あと三駅攻防するか?」
地味な攻防なのに、悶絶するようなやり取りの攻防をおおよそ十五分前後か。
死ぬ。
だが、テクで負けたつもりはない。
「我慢できひんなったら、下車な」

いやもう、電車で盛るのいくないよーほんとねー。
…負けてもたとか…そんなそんな。
うん、いくないよーほんとねー…。