とある生徒の追想


一人目が自供したのは、アオのお陰だ。
アオが二人目をあぶり出したことによって、一人目に動揺をあたえることができた。
たとえ、タスクやタダシが脅すようなことをしたとしても、それは確かなことである。
一人目は謝ったあとに、だからすんなりと話してくれた。
「ちゃんと、話してくれたよー。噂は君に聞いたんだって。だからさ、君も話さない?どうしてこんなことしたか、誰に噂を聞いたのか」
聞かれた主犯格のタスクファンは、狭い部屋の出入り口だけを見ていた。
「聞いたんです。あの人は無理矢理ボディガードやらされてるとか、迫られてるとか、迷惑してるとか、聞いたんです。噂だって」
噂だと聞いたというのに、彼はそれを信じ込んでいるようで、一度も視線を出入り口から反らすようなことはない。彼の様子は俯いてビクビクしていた一人目とは違った。
「誰に聞いたの?」
「言えません」
言えませんと言った彼は、今後も言うつもりがないのだろう。出入り口からようやく動いた目が、タダシを睨みつけた。
「んー……答えてくれそうにもないなぁ……」
「一つ、聞いてもいいですか」
彼の意思は固い。一人目とは違い、彼はしっかりとした意思と決意を持って他の生徒をけしかけたのだ。
「いいよ」
「……牧瀬様は、本当のところ、会長をどう思われているんですか」
彼と一人目の違いは、彼は噂を信じていながら、タスクの気持ちの在り処を知りたがったところである。
おそらく彼は、タスクが何もしないところにも憤っているのだ。
タダシは、その様子にあと一歩踏み込んで考えればいいのにと、つまらなく思った。
「俺は完璧に、タスクのことがわかるわけじゃないし、タスクがいったことしかくりかえせないんだけどさ」
一人目がすべて自供したあと、タスクが言ったことをタダシは思い出し、唇を尖らせる。
「『あれが愛してるとかああいうことを言うのが、俺は面倒くさい。だが嫌いになれねぇ。どうしてもだ』だってさ」
タスク自身に聞けばはやいと言ったタスクは、そうしてタスクが決めたことを伝えたのだ。
「曖昧でしょ」
彼の瞬きが多くなり、少しずつ視線がそれていく。
すぐに、涙が彼の目に膜をはり、零れた。
「タスクは『それでいい』んだってさ。だから勘違いされちゃうんだよ。はっきりしろっていうんだ。そこはさ、タスクが悪いって思うよ。それなのに、平然と『わりぃ』とかいうんだよ、反省なんてしないよあれ」
涙を拭うことが出来ずに、静かに泣いている彼を前に、タダシは苦笑して、何処からともなくティッシュ箱を取り出す。
「俺は謝ってもしかたないから、いわないけど。もっといい恋しなよ。タスク、いい男じゃなくて悪い男だからね」
ティッシュ箱を受け取ってくれた彼に、ほっとして、タダシは続けた。
「あの二人、趣味悪いったらないね」
ティッシュをいくつもとって、顔をそれに埋めるようにして、彼は頷く。
「まったく、……です」



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