酔うとまず気持ち悪くなる。それを超すと、ハイになって添い寝しようとする。
自分自身の酒癖って奴をよく理解している。
しかし、さめるのも早い。だが、そのとき俺は、皐の肩をかりてウトウトしていた。
ちょっと寝て、それから起きて行けばいいだろうと思っていた。
それは間違いだった。
『……みやび?あのな。さびしい。しょーごとれんがいちゃいちゃする。おれもいちゃいちゃしたい』
電話に起こされ、ハイと返事をした俺に、チカの声。
急に名前を呼ばれたことに、俺はいい夢見てるなそろそろ起きないとダメだなと思った。
そのあとに寂しいだとか、省吾と蓮がイチャイチャとか俺もイチャイチャとか続いたあたりで俺は、目が覚めた。
チカはよっている。
かなり。
「すぐ行く」
そう返事をすると、皐の前に座っていた晃二が口笛をふいた。
今日は、飲みがブッキングしていた。皆知り合いなのだし、みなで飲めばよかったのだが、なんとなく出身高校別に分かれていたし、俺がチカを回収したいだけなので、たまにはそういうのもいいだろう。と分かれて飲んでいた。
『ん。なぁ、いますぐキスしたい。していい?』
無理からんことをいうチカに、俺は一気に酔いが覚めた。
かなり酔っているどころの話ではない。
リップ音まで聞こえる。
これはすでにキスを一通りしてしまったあとだろう。
この調子では、おふざけがすぎる他の奴らも酷い有様に違いない。
まさか、3Pとか言い出さないよな?
「あ、高雅院せんぱー、ちょーあせってるー」
「雅、大変だな、あの酒癖じゃな」
大学生になってから随分スムーズに喋るようになった幼馴染は、既にチカの酒癖を知っている。
『古城がその気だから3Pすっぞー』
『ああ、それもいいな』
『さんぴーとか。おれはみやびのだっつう』
普段聞いても出てきそうにない言葉が出てきたことには、可愛いものだなと思えるのだが、話している内容が酷い。
他の二人もふざけていっているのは解っている。
チカの貞操観念もわりと信じている。
しかし、酔ったチカは割と飽きるのも早いのだ。
待たせたら、ちょっとだけと参加しかねない。
『はやくこいよ』
無情にも、俺が何か言う前にきられる通話。
「…悪い、帰る」
「ひゅーひゅー旦那さんあっついねー!」
「ひゅーひゅー」
「…おまえら、あんまりからかうと後怖いぞ?」
十夜が忠告してはいるが、あまり効果はない。俺は今はいそいでいるため、二人を無視することにした。
たどり着いたそこには、三人の酔っ払い。
三人の様子に思わず呟く。
「たちワリィ」
俺の声が聞こえたのか、チカが走ってきた。
走って…いや、千鳥足でよたよたと。危なっかしいからあまり動いて欲しくはない。
「みやび、ただいまのハグと、キス」
嬉しそうにおねだりしながら抱きつかれ、俺はチカの腰に手を回すと後頭部をゆるくと掴んで、キスをする。
どうして酔うと誰でも呼び捨てにするのだろう。それは別に構わないが、そろそろ酔っていなくても名前くらい呼んでくれたらいいものを。この積極性の半分、いや、四分の一でもいい。普段からあればいい。いや、あれはあれで嫌いじゃない。しかし、もう少しステップアップしてもいいんじゃないだろうか。
などと考えている間にやりすぎてしまったらしい。
チカが立つことが難しいのか、俺を支えにしてしまっている。
まだ酒が残っているな。
俺が思っていると、鬼怒川が口を開いた。
「お土産にどうぞ」
そうだな、持ち帰ろう。
このままよからぬことをしても構わないのだが、本人はきっと朝になったら全て忘れている。
朝目覚め、そういった事実が残っていると当分悩んで相手にならない。
それ以前に、かえったら、熟睡なんだろう。
解っている。
解っているからこそ、俺の理性はどこに持って行けばいいか解らない。
「はぁ…」
俺は帰り道、フニャフニャしたチカを支えながら、ため息をついたのであった。
健全なお付き合いぶりに、本当、参る…。