ホワイトデーは三倍


ケーキ三種をつくってくれると約束した。
確かに、ケーキは三種だった。
全部、甘くないケーキだった。
「おい」
バレンタインによく見かけた甘くないケーキ。
うまいのは知っている。だが、俺は甘味が食べたかった。
「なんだ?」
不機嫌な顔、不機嫌な声で、古城は腕組みをして俺を見下げた。
「約束は?」
「んなもん反故だ」
不機嫌になりたいのはこちらの方だというのに、あくまで不機嫌にこちらを見下してくる古城に、俺も腹が立って立ち上がる。
「ハァ?反故した上に、散々食ったこれを三種用意するってのはどういうつもりだ」
これで目線は大体同じになる。
古城は俺を正面から見据えてこう言い切った。
「昨日の菓子、どうした?」
昨日。俺は菓子を用意した。
大量に用意して、配り歩いた。
バレンタインのお返しに。
毎年、バレンタインをくれたやつにはくれたものとは釣り合わないものの、お返しをすることにしている。下手に釣り合いが取れてしまうと勘違いされるので、堂々と配り歩いている。
それを目当てに菓子をくれる奴もいるので、いっそ、ファンサービスのような気分でもあるのだが。
とにかく、配った。
それは毎年恒例で、大和撫子が恋人になったとしても例外じゃない。
そして、大和撫子もそれを知っているはずだ。
「まさか、妬いたんじゃねぇよな?」
鼻で笑ってやると、古城も鼻で笑って対応してくれた。
「そうだとしたら?」
…何か、可愛いことを可愛くない態度で言われている気がしてならない。俺の脳みそおかしくなったか。
「てめぇがもらってくるのは、まぁ、仕方ねぇと思う。し、てめぇのこと分かってねんだなって、こっちも余裕ぶっこいてやれる。けどなぁ…てめぇが配り歩くのは別だ。毎年恒例なのは知ってる。今年も配んだろうなってのも予測してた。それを目当てにバレンタイン渡してる下心野郎も結構いるのも知ってるっつーかそれを知っていながら、配るとか、てめぇなめてんのか?つうか思った以上に腹が立った。わかったか。わかっただろ。だから、甘くなくてもそれ食っとけ」
とりあえず押し倒しておいた。
それでも大量の菓子を用意していた昨日、タルト生地にしようとしておいといた生地、とか、その他もろもろで、翌日、ケーキを作ってくれたのだから、結局古城は俺に甘いんだろうな。





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