気がついたら、甘党が冷蔵庫を充実させている。
いつそんなものを注文しているのか、どうやって注文しているのか。
疑問に思わないでなかった。
パソコンからネットで注文というのが普通だが、もしかしたらカタログを取り寄せているかもしれない。いや、ここはお手軽に携帯電話で、ポチッと。
色々考えた。
色々考えたが、携帯からだけでは、鬼怒川の甘党ぶりを満足させられるとは思えない。
俺はある日、鬼怒川のいない鬼怒川の部屋でパソコンを起動させた。
軽快な音とともに立ち上がったパソコンはノートパソコン。下には冷却用のジェルパッドが敷かれており、横には容量を増やすべくタワーが置かれている。
サクサクと動く動作環境は実に羨ましい。
開かれた画面は実にすっきりしており、壁紙も風景写真といたって普通。
起動するとともに繋がったインターネット。窓を開くべくクリックしたアイコン。
ホーム画面は有名な検索サイト。
バーのお気に入りをクリック。これもスッキリとした様子だったが、俺は鬼怒川の甘党たる部分をそこに見つける。
「have a sweet tooth」
甘党という意味のそれに矢印をおくと、これもまたすっきりとフォルダ分けされた表示が出てくる。
飲み物、焼き菓子、ケーキ、チョコ、ゼリー、プリン、パン…その他もろもろ。
俺は甘党の執念をみた。
その分類の一つに矢印を当てると、通販可、不可まで分類わけされていた。
スイーツ情報の記事系サイトは、焼き菓子やケーキと同じフォルダにはいっていたのだが、これもまた数サイトある。
何故かレシピ系のサイトもフォルダに入っていたのだが、一度も作っている姿を見たことがない。一体なんのためにこれをフォルダにいれているのだろう。うまそうだといって見るためか。俺に作らせる為ではあるまい。リクエストするためなら、可愛げがあるが、そうではないに違いない。
「…みたな?」
鬼怒川が背後から俺の肩を叩いた。
振り向けない。
「ロック、かけてねぇの…なんで?」
振り向けないが、話題をそらすべく口は開く。
「てめぇしかこの部屋入ってこねぇじゃねぇか。トノは共有スペースでくつろいでかえるだろ」
「そうだが」
「とにかく見られてしまったからには仕方ない」
鶴にでもなって帰ってくれないだろうか。いや、帰るといっても、どこだ。
俺は珍しく焦っていた。
「人のものを勝手に見たとあっちゃ、お仕置きしねぇとなぁ…」
振り返りたくない。
だが、振り返らずとも解る。
おそらく、鬼怒川はニヤリと笑った。
ふと、『甘党』のフォルダ名が俺の目に映る。
思わず呟く。
「……、kill me gently」
「ハァ?pardon me?」
…クッソ!