「トーノちん」
うきうきといった調子で那須晃二が話しかけてくる。
俺のもっている簡易包装されたものを指差して、ニヤニヤ笑う。
「それなぁに?」
俺の答えは包装よりも簡単だった。
「下着」
「誰にあげるの?っていうか、高雅院元会長だよねぇえ?」
「まぁ」
先日のことだ。
電車の遅延があって、俺は帰宅できなくなっていた。
高雅院のいた学園に遊びに行っていたので、町も近いしホテルでも泊まろうか。などと思っていたら、あっという間に高雅院に連絡がいき、わりと近くに住んでいる高雅院に泊まるか?と誘われて断れるわけがなく。
俺は一泊してきたわけだが。
その際、下着や服を高雅院がくれたわけだ。
服は高雅院のもので、生涯、もう一度この服を使うなんてことはないだろうと思われる。帰って箪笥の中に大事にしまっておいた。
下着はもちろん新品未開封。一つ言わせてもらうと俺は変態ではない。高雅院のものだからといって、そういったものを喜ぶシュミはない。
でだ。
とりあえず、貰ったものすべてをそれなりに返そうと、俺はおもったわけで。
はからずしも街で出会った那須と一緒にショッピングをする運びとなったわけだ。
「ふっふー知ってると思うけど、男が服だの下着だの贈るのってさー…脱がしたいからなんだよね…?」
選んでいたシャツが手からぽろっと離れる。
「いや、そんなつもりは…」
「まぁートノちんなら、高雅院せんぱぁーいにたくさん貢物くらいしそうだけど、センパイがそういうの受け取らないだろーおしぃ?そうなると、やっぱり、なんかお返し的なものだよねぇ、それねぇ。そして、トノちんの律儀さからして、下着込み、お洋服一式のおかえしよねぇ、それねぇ。つ・ま・り。センパァーイにも貰ってるわけよねぇ?」
「……」
那須はもってまわった言い方というか、非常にくどい言い方、かついやらしい言い方をするが、いいたいことはわかる。
つまり、高雅院が俺にくれたそれらは脱がせたいからだと?
「やだエッチ!」
「…歯ァ、食いしばれ?」
俺ならまだしも、高雅院がまさかそんなことをするわけがないだろう?
俺は拳を固める。
「えー…トノちん、ミヤちゃんを神聖化しすぎー」
と俺からゆっくり逃げながら、那須は携帯でどこかに電話をかける。
「はいもっしー。そうそう、オレオレ。詐欺じゃないって。…うん、ところでお洋服一式あげたんだってね?もちろん、オレ様何様トノ様にですよん。はぁ、ふーん。まぁ、そうだわな。え、うん。かわる?」
そして俺に携帯を投げる。
俺はそれをキャッチして画面を見た。
通話。高雅院雅。
「は…?」
「お話したいって」
「も、もしもし?」
俺の耳に、心地いい声が入ってくる。
『チカ?…この前のは、別に下心と思ってくれてかまわないぞ?』
高雅院の声は笑っている。
からかわれている。
解ってはいるんだ。わかってはいるのだが。
「……ぅ…あ…え、遠慮…でき…ない…」
携帯電話から高雅院の笑い声が聞こえる。正直すぎる俺に、しばらく笑った後、高雅院は言った。
『その調子じゃ、まだ無理だな。はー笑った。ごめんな?今度また、デートでもしようか?』
「あ、いや、うん」
『じゃあ、くわしくはまたメールでもする』
そういって切った。
那須に携帯を返そうとすると、ニヤニヤと笑っていた。
もう笑われてもかまわない。
「ほらねートノちん、高雅院雅はちゃあーんと男の子でしょ?」
「…無理だといわれたが」
「まだとかついたんじゃないの?それ、どういう意味かわかるでしょー?」
トノちんかしこいもんねー。という言葉とともに、俺は一気に赤面した。