I wanna be loved by you, just you!


それは俺が高校を卒業してから約一年、恋人が高校を卒業をする少し前のこと。
卒業を前にした恋人に、ひとつの提案をした。
「卒業旅行でもするか?」
恋人は驚いて固まる。
一瞬でどこまでも考え込んでしまう恋人の答えを待って、俺はカウントをする。
ゆっくり十秒。
殿白河伊周は口を開く。
「……日帰りで?」
恋人になって一年。
一人暮らしの恋人の部屋に泊まることもあったというのに、日帰り旅行を提案するチカに笑ってみせる。
「チカは日帰りがいいのか?」
恋人を目の前に、表情を変えることなく葛藤する様を眺めつつ、カフェラテを一口飲む。
飲み終わるのを待っていたかのように、再びチカが口を開いた。
「いや、その……ゆっくりしたい」
「じゃあ、一泊はしたいところだな」
一泊は少ないだろうと思うのだが、二泊三日というと、チカが一日二日楽しめない可能性があるため、いうのをやめた。
往復の交通費を含むパックの旅行の方が安いし、人数をそれなりに揃えた方が無駄なことを考えずに済む。数人に声をかけることにする。もしもの為に往路の交通費を含むパックをとることも考えつつ、慣れない土地で一泊という事態に慌てるチカに目を向ける。
「一泊…」
すでにこちらが何を言っても耳に入らないことを知っているのだが、俺は続ける。
「行き易いし、関西にでもいくか」
関西に知り合いもいる。
俺はぼんやりと彼方に思考を飛ばしてしまった恋人のチカの顔をここぞとばかりに堪能しながら、カフェラテを飲みきった。
恋人になって一年だ。
一年もたっている。
遠距離恋愛であるし、相手は高校三年生の受験生で、結局三年間続けて生徒会長をしてしまった人だ。
受験の邪魔をしたくなかったし、生徒会長としての仕事も邪魔したくなかった。
会える日は多いわけではないし、こちらも高校生より暇はあるとはいえ、大学生だ。
時間より金がない。
会える限りは会い、恋人らしいイベントもこなしたと思うのだが、一向に恋人らしいことに慣れない。それとなく慣らしているのだが、キスどころか手を取ることも、抱きしめることも困難だ。
そこにきて旅行だ。
キスならば、なんとか出来るかもしれないが、それ以上は無理なんだろうと予測がつく。
「そういうところも好きなんだがな…」
無理はしない。
困ったことにベタ惚れだからだ。
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