第二視聴覚室。
第一視聴覚室と第三視聴覚室はよく使うが、この第二視聴覚室はあまり使わない。
その上、今回の文化祭ではまったく使用申請がなかったため、立ち入り禁止区域でもある。
立ち入り禁止区域であるにも関わらず、いらぬことをする輩というのはいるものだ。
サボるだけならまだしも暴力行為に、文化祭に浮かれてナンパ、悪くすれば強姦現場としても大活躍。
今回は、平和にサボリの現場となっていた。
「立ち入り禁止区域ってわかってるか?」
「……ハイ」
「ハイじゃねぇよ。なんでてめぇがサボってんだよ。俺がサボりてぇよ」
よりにもよって風紀副委員長が積極的にサボっていた。
確か今の時間は、ここではない別の場所を巡回しているはずだ。
「いやいや、委員長がサボったら風紀の沽券に関わるといいますか」
「じゃあ、お前がサボってたら沽券に関わらねぇのかよ」
「ええ、そこは俺、信頼されてますからね!」
きっと副委員長はサボるだろうと、信頼されている。
副委員長がそういうので、俺はげんこつを落とすしかない。
「いって!何すんですかあんた」
「何すんですかじゃねぇよマジお前仕事しろよそろそろ滅せよ変態が」
「一息!」
何か嬉しそうな副委員長を視聴覚室から蹴り出し、ヤレヤレと肩を落とし、少しだけ備え付けの椅子に座る。
不愉快なことに副委員長の体温が残っていた。
そう思えばこの椅子に座っていたなと思いながらも、ほかの椅子に座る気力さえ今はない。
そこへ、立ち入り禁止区域であるはずの教室のドアがスライドされる音がした。
「……おい、ヤンキー…」
ドアがスライドされる音に思わずドアの方をみた俺の視界に入ってきたヤンキーに、注意しようにもいい言葉が見つからず、思わず愚痴を零す。
「俺がいるところでサボろうとかしてんじゃねぇ」
「お前がいるから選んでんだけど」
「そりゃ、愛されててつれぇわ」
ドアの方に振り向いているのも疲れる。
一瞬、ヤンキーが…古城が視界に入った瞬間、内心喜んでしまったのだが、憎まれ口を叩くのはやめない。
「飯食えたか?」
「食ってねぇ」
「よし」
何がいいんだ。
分かっているが、きいてやりたい。
「スタンプくれねぇ?」
なんのことだともう一度振り向けば、やつは見覚えのあるスタンプカードをもっていた。
「何やってんだよ、大和撫子ハグいらねぇだろ」
「いらねぇけど」
一応スタンプとインクを投げる。
そろそろ俺もこのイベントを終わらせたかった。
古城ならばハグされようが、それ以上を求められようが望むところだ。
できれば今は、それ以上はご遠慮願いたいが。
「大変よくできましたかよ」
大変よくできましたのスタンプを押したあと、古城は俺を後ろから抱きしめるようにして、シャツの胸ポケットにスタンプとインクとカードをいれた。
「てめぇがハグしてどうするよ」
「キスのがいい」
「話聞けよ」
「キスは?」
仕方がないので、積極的ではしたない大和撫子の後頭部を掴んで引き寄せ、キスをする。
少し甘い味のする咥内は、古城が何か食べてきたこと示している。
「…何食った」
「プリン味見した」
「………プリン」
腹が減っているのに、どうして甘いものの話を聞かなければならないのだろう。拷問だ。
「…帰ったら、食わしてやる」
「晩飯、デザート…アイスティーも頼む」
頷く古城に、俺の疲れが少しとれた気がした。
「古城、俺のこと甘やかすよなぁ…」
「てめぇじゃなけりゃしてねぇよ」
俺はもう一度キスをして、古城の髪をぐしゃぐしゃに荒らす。
「お前もくれ」
「ちょうどよかった。俺もてめぇに抱かれたかった」
「なんで?」
いつもなら、そうか。というだけだが、なんとなく聞いた。
勝手な思い込みに気がついてしまったせいかもしれない。
「てめぇに色目つかう連中に腹立ったから」
俺は思わず、笑った。
「……告白か?」
「てめぇになんざわざわざしねぇ」
「ああ、そう……俺のもんだもんな、お前」
傲慢だろうが、思い上がりだろうが、正直、気がついても直す気にもなれない。
古城はゆっくり口角を上げた。
「お前も、俺のもんだしな」
その通り過ぎて、腹も立たないどころか、満足感さえある。
今日は、フルコースで贅沢は出来そうもない。
後、中等部に存在する一匹狼が俺のファンだという噂が出たんだが、相変わらず俺と高等部の一匹狼が激烈に仲が悪いという噂は消えなかった。
こんなに愛してんのに、失礼な話だ。
end
鬼top