晃二×皐




 今年のクリスマスはお休みですと言ったときのさっちゃんの顔ときたら、憎らしい。
 今更かと薄ら笑って、首を鳴らしていたのだ。
 どうしてこんな可愛げのない子になっちゃったのと、しくしく嘘泣きをしたところ、ため息が頭上から降ってきた。
「晃二のせいだ」
「えー……なんでも俺のせいにするのいくない」
 言うだけ言ってはみたものの、俺のせいであるのは明白である。
 少しでも油断しようものなら、トラウマの一つや二つを植えつけようとする恋人がいたら、可愛く笑っていられないだろう。
「じゃあ、もし、クリスマスが休みじゃなかったとして、晃二はいないんだろ」
「やだなぁさっちゃん。いつも通りバイト終わったら一緒に寝てあげるよ?」
 さっちゃんが鼻で笑った。本当に可愛げがなくなったものである。高校の時はまだたどたどしく俺がいないことに不満を言い、隣に居るだけで嬉しそうに尻尾を振っていた。俺が苛めすぎて性格が曲がってしまったのかもしれない。
「晃二」
「なぁに」
「クリスマス、年末年始、誕生日、普通の休日、なんでもいい。晃二がいればなんでもいい。晃二がいなければどうでもいい」
 高校生の頃のさっちゃんに思いを馳せていたら、現在のさっちゃんが随分とかわいらしいことを言い出した。
 さっちゃんは、変わっていない。
 俺のことを昔より解っているし、随分と可愛げもなくなったし、相違点のほうが多くなったし探しやすくなった。しかし、さっちゃんはさっちゃんだ。
「なら、約束はしないし、予定は空けなくていいから、さっちゃんが何するか教えてくれる?」
「喜んで」



 晃二の言葉は額面通りに受け取ってはならない。
 よく解っているつもりで、いつも晃二の言葉に期待してしまう。
「今年のクリスマスはお休みにします」
 今年に限ってそんなことを言うものだから、いつもとは違うのかと期待が頭をもたげる。
 期待をするだけ無駄で、期待をした分悲しい気持ちになるだけだ。身をもって知っているはずである。それでも期待をしてしまうのは、学習できないのか、したくないのか、忘れてしまうのか。
 晃二のいつもと違うは、いつもと違う方法で俺を弄って遊ぶ味付けの一つでしかない。
 解っている。理解している。
 でも、晃二と話しているとき、俺はぬか喜びせずにはいられないのだ。
 それをそのまま表に出してしまうと、晃二はすぐに飽きて、違うことを考え出してしまう。だから俺は、皮肉な顔をする。
「でもね、さっちゃん。さっちゃんはどうでもいいというけれど、俺はそうでもなくてね」
 意地の悪い顔は、晃二に良く似あう。
 目を細くし、眉を仕方なさそうに下げ、口を三日月のようにする。細くなった目は、俺を見上げ、笑っていた。
「俺の行動でそうして反応をするのなら、俺にとっては、どっちも満足のいく結果でね」
 普段から、あまり動くことの無い表情に感謝する。もし、俺が表情豊かな人ならば、今頃、晃二の様子にのまれて表情を無くしていたかもしれない。元々無いのなら、失くすものも無い。
「ねぇ、皐」
 背中に何かが這い回る。
 いつまで経っても下りても行かず、上がっても行かない寒気に、腕をすりそうになってきつく拳を握る。
「でさー。さっちゃんの予定は?」