「今日はあんなに喋れた…」
「口喧嘩ですがね」
「しかも挨拶までしてくれた…」
「ついでですがね」
「最後に俺の心配まで…」
「あれ、心配なわけですか」
副会長が隣から水をさしてくる。
夢想としか思えない変換でもしないかぎり、落ち込んでしまうからこうして勝手な解釈をしているというのに。
まず今日も風紀委員長が帰るだろうなという時間を狙って廊下に出た。
お疲れさまと言って、あわよくば一緒に寮に帰って、あわよくば一緒に飯食って、あわよくばちょっと引き止めたりなんかして、最終的にはおやすみとか、また明日とか言って、部屋に気分よく帰る予定だった。
いつまでたっても、それだけのことができない。
無能だなどと少しも、本当に髪の毛一本ほどにも思っていない。
自意識過剰だとか死んでも思わないだろうし、顔だって見せるなどころかできるだけ長く見ていたっていい。
飯食って寝て欲しいのは、若干疲れた顔をしていたからで、俺が食堂で会いたくないからなどでは、けっして、本当に、一寸ほどもない。
「こんなんじゃ嫌われるだけか…」
「わかってんなら素直になんなさいよ」
それにしたって、副会長は羨ましい。
あいつにかるーく挨拶してしまえ、さらに、ちゃんと挨拶してもらえる。
たまに、ふと微笑すら漏らして貰える。たまらない。
「くそ…マジ、てめぇ星に帰れ」
「急な八つ当りやめろっつーんですよ」
寮の食堂からの帰り、副会長に八つ当りをしたあと、自室へと足を運ぶ。何故生徒会長は一番、エレベーターからとおい部屋なのだろうか。などと、それにも八つ当りしていた時だった。
「……」
「……」
早く飯食って寝ろといったのに、あいつが俺の向かい側の部屋から出てきた。
俺は、なにかとんでもないことを言わないように口を閉じ、下を向いて歩く。
「…早く寝ろよ、お疲れさん………おやすみ」
すれ違いざま、大きくも小さくもないが、やたら早口な言葉が吐き出された。
俺は振り返って、口をぱくぱくする。声が出ない。遠ざかっていく背中が、何故だかいつもより速いし遠い。
「あ、お……お………てめぇこそ…っ」
早く寝ろって言われたのに、今日は眠れないかもしれない。
ニヤニヤしてしまう顔を隠すように、俺は自室へとそそくさと入って、風紀委員長の『おやすみ』を反芻したのであった。