「笹塚、災難だったな」
肩を震わせながらやってきた風紀委員長に、俺は不機嫌さを隠せない。
「しかし、授業中にも関わらず、四方田は自由だな…ちょっと注意するべきなのかもしれねぇけど」
面白いからという理由で、大抵何も言わない。
風紀委員会ではそれが普通となっている。
たまに世話になっているので、知っていた。
「それにしても、笹塚。おまえ、なんでこんなとこ来たんだ?普通はこねぇだろ」
風紀委員長の言葉に、制裁現場となった裏庭の一角に歩みを進めて、止まる。
そこには、先日投げつけられたストラップがあった。
「……それ、四方田のか?」
「あの野郎、俺と喧嘩したら負けるに決まってんじゃんとかいって、持ってるものを遠くから投げつけやがるんだよ」
ちぎられたストラップを見て、苦い顔をする。
俺が違反行為をした場合、取り押さえることは不可能だと言って、あの野郎はいつも俺に向かってものを投げる。
あたればそれなりにいたいが、当たり所が悪いと死んでしまうようなものを投げたりはしない。今回は投げたあとで、お気に入りの携帯ストラップだったらしく、しまったという顔をした。
「いやしかし、お前に似合わねぇな、そのクマ」
「…るせぇ…あのアホにだって似合わねぇよ」
俺はクマを拾って風紀い委員長のブレザーにねじ込む。
投げたものは俺が手で受け止めるか、避けるかのどちらかで、軽い割にはよく飛んだ携帯ストラップのクマは、どこにいったかわからなくなってしまったのだ。
ものなど投げずとも、会えば、そそくさといなくなってやるし、場合によっては連行されてやるというのに、あの野郎は、俺を的あてゲームの鬼かなんかだと思っているとしか思えない。
「愛されてるんだっけ?お熱いな」
「ハァ?んなわけねぇだろ。どうせ、びっくりさせとけば止まるかな、よかったよかった。結果オーライ。くらいにしか思ってねぇよ」
「よくお分かりで」
風紀委員長が笑うのが腹立たしい。
ひとつため息をついて、俺は少し風紀委員長から離れる。
「それで?俺はてめぇに、連行されるのか」
「そうなるな。呼び出してもらったんで」
ブレザーのポケットからクマの足が見える。せめて顔を上にしてやるべきだったのかもしれない。どっちにしろ間抜けだ。
「ごめん被る」
「だと思ったわ」
風紀委員長の足が地面から離れる。
それと同時に、俺は回れ右して走り出す。
「逃げんのかよ」
「てめぇと喧嘩してもつまんねぇよ」
つまるつまらないという問題ではないが、捕まっていいことなどない。
俺は走った。
愛してるなんてどうせ適当に言ったことのくせに、本当、俺はその程度で動揺するとか、馬鹿かと思いながら。

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