昼休み、放課後となると、必ずどこかで賭け事をしている。
それが、新崎智(にいざきさとる)だ。
賭け事といっても、賭けるのは金銭ではなくもので、俺が見たときは、飲み物や食べ物が主だった。
新崎は少し嫌なやつで、菓子や飲み物を巻き上げるだけ巻き上げて、食わないし飲まないからと人に渡すことが多い。それが、一緒に賭け事をしていた人間に渡すのなら、嫌なやつだなという印象を持たなかったが、新崎は賭け事をしていた面子には一つも渡さないのだ。
故に、新崎の印象は少し嫌なやつだった。
新崎は隠れることなく色々な賭け事をやる。
持ち運びが楽であり、ゲームをしている感覚の強いトランプで賭け事をしていることが多かったが、運動部の試合の勝敗や、コイントスなどもやっていた。
ところ構わずそうして賭け事をしているものだから新崎はとても目立つ。
毎日、教室と生徒会室と寮を行き来するくらいしかやることのない俺でも、新崎のことを知っており、よく見た。
新崎は、学園の名物のようなものだという認識まであった。
だからといって、新崎に近づいてみようだとか、新崎に勝負をかけてみようとは思ったこともなかったのだが、ある日、風紀委員長に新崎が勝負を持ちかけたことで俺の中での新崎が変わった。
新崎のお気に入りのトランプが風紀に没収され、新崎が勝てばトランプを返却してもらい、負けたら新崎は風紀委員になるという条件だった。
新崎はいつも賭けに勝っていたが、学園の有名人と呼ばれる人間と賭け事をするようなことはなかったし、今でも片手で数えてあまるほどしかやったことがないという。
そのときはいつもの新崎を眺める野次馬と有名人を眺める野次馬。珍しいものを見る野次馬と、それはそれは盛況なものだった。
新崎が切れ者といわれる風紀委員長と対峙して、ついに負けるのではないかという期待から、生徒会役員達も野次馬となっていた。
俺は呆れて、いつも通り部屋に帰ろうとしていたのだが、風紀委員長につかまり、ディーラーがわりにされてしまった。
新崎はディーラーになった俺を見て、賭けるものの行方を変えた。
「俺が勝ったら、あのトランプ、会長にやってくれ」
「はぁ?いらねぇよ」
「風紀委員長、よろしく」
「おう、了承した」
「おい」
二人は俺の言うことなんて、聞かなかった。
だから俺の部屋の机の中には、未だにトランプが大事に保管されている。
「だって、浅賀(あさが)、俺に興味なかったろ?」
俺が、何故トランプをくれたんだと聞くと、新崎はそう言って笑った。
「中身、見るかどうかは賭けだったけど、俺、賭け事には自信あるからなぁ」
ケースから取り出してみると、何枚かカードが抜けていた。そのトランプは、取り返そうとしていただけに何か思いの詰まったとても大切なものに思えた。
「まさか、あんな不毛な遊びしてるときに風紀委員長に没収されると思ってなくて、誤算だったんだけど、会長が来てくれてよかった」
キングと、ある数字のカードが一部抜けたそれは、今なら、俺にその不毛な遊びの意味を教えてくれる。
「浅賀の誕生日とか、乙女チックだよなぁ」
少し前までその事実に気がつかなかったが、知ってしまった今でもトランプを返す気には一向になれない。
「浅賀?」
賭け事に応じている、あの新崎の楽しそうで、危険な場所を歩くような、それでいてときに重たくなり威圧してくる空気。それが、俺をドキドキさせたために、トランプを見るまでもなく気になってしまったなどと口が裂けてもいえない。
「なんでもない」
あのトランプと共に墓場まで持っていく秘密である。
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