「うっわ、ねぇわ」
思わず呟いた俺に、その場に居た、いつものメンツが一斉に振り返った。
「叶丞、もういっかい」
そう言ったのは相方の良平だった。
サービス精神旺盛な俺は、もう一度同じ言葉を呟いた。
「うっわ、ねぇわ」
「なまらない叶丞!」
なんだ、その勝訴という紙を掲げる人間みたいな反応は。
俺は突っ込まずに、嫌そうな顔をした。
「なんの心境の変化だ?大丈夫か?体調不良か?」
俺がちょっと普段の口調で話さないだけで病気なのか。そういう認識なのか、一織。
「兄貴何いってんだよ、あいつは元々おかしいだろ」
そんなことを言いながら、会長が腕を掻いた。俺が普段の言葉遣いでないのが痒いらしい。兄よりも失礼な反応である。
「いや、それより、反……叶丞くん、どうしてそんな話し方を?」
普段はメガネを愛用している追求がメガネを光らせた。
「どうしてって…標(しるし)の野郎が」
「気持ちわりぃからしゃべんな」
ついにオブラートにも包まずそんなことを言いだしたのは、双剣だ。なんというか、本当に失礼なやつだ。
「……標?」
俺が普段とは違う喋り方をした時から固まっていた青磁が、聞きなれない名前に反応して、首を振った。
なんというか、他の連中が失礼な反応をするので、青磁の反応がとても可愛く見えてきた。
残念ながら、良平以外にあまり興味のない青磁のことだ。俺の口調についても、驚きはしては興味のない項目に違いない。
「俺の、実家の近所にあるガンショップの兄ちゃんなんだが、そいつが、『そんななまっててお前、ハブだろ。ちょっと普通に喋ってみろよ』っつってだな…」
「いや、普通に喋ってくれるのはいいんだけど、その口調になるのは予想外というか…」
和灯はさすが、和灯というか。当たり障り無い言い方で、違和感を訴えてくれた。
「俺、下町育ちだし、標がこういう喋り方で、移ってんだよ」
「じゃあ、どうして普段からそれじゃないのかい?」
追求が嬉しそうに追求してくる。
俺は研究材料じゃないぞ。
「標より、こーくんのが一緒に……ああ、こーくんは幼馴染な」
知ってるやつも多いが、知らない奴も半分いるため説明すると、佐々良が納得したように頷いた。
「俺が知ってる限りじゃ、にゃーにゃー言ってんだけど、あの人」
佐々良はどうやら俺の言葉の違和感より違うことが気になるらしい。
「アレは、最近…ちょっと前…わりぃ、ひぃ、いつくらいだ?」
一応こーくんの親友である一織に尋ねて見ると、一織が虚空を睨みつけてしばらく考えたあと、答えてくれた。
「卒業前くらいだ」
「じゃあ、1、2年前くらいからだな。それから、にぁにぁ言って人おちょくってんだよ。とにかく、こーくんと居ることが長かったし、俺の家族はああいう話し方だから」
「うん、理解したよ。もういいから、普段のに戻らないかな?」
どうやら追求も激しい違和感を覚えているらしい。
「ひでぇ」
「いや、でもマジ違和感ひでぇから」
「悪い、俺も正直…」
似てない双子である将牙と舞師までそんなことを言い始めた。
将牙は良平と一緒で違和感はあるが、とくにたいしたこととも思っていないようだが、舞師は違和感を覚えてしまったことにちょっと罪悪感を覚えているようだ。
「しばらく喋ってやろうか?」
思わずそんなことを言うと、一織がふと、呟いた。
「いや、俺はもう慣れてきた。これはこれで…」
一織が口元に指を持っていき何か怖い方向に考えをもっていっているようで、俺は慌てて、口調を戻した。
「でも、俺もあんま慣れんし、やっぱこっちがいいわぁ…」
おい、誰だ舌打ちした奴。
誰がしたかはわかっているが、あえて知らんふりしておくことにした。