JAPANESE MANNER


神様は、実在する。実在するが、手は出して来ない。
知っている。知っているが、どうしてもいいたい。
「かみさまのバカ!」
ベッドに叩き付けた手を見ながら、俺は泣きたくなった。
「なんでちいさいんや。ようやっとおおきなったのに……!」
俺は成長が遅めで、周りに小さい小さいといわれ続け、十五になる頃漸く大きくなったのだ。お姉さま方には小さい可愛いと好評だったのは良かったが、人とはないものを強請るものである。背が低いのはコンプレックスでしかなかった。
「あー……ココロおれてもた、もうなんもでけへん。ねる。ねたらなおる。たぶんなおる。なおるんや、ねるで」
俺は布団の中に潜りながら、自己暗示をかける。そうでもないとやってられない。
「ねるな、チビッ子」
「チビやけど、チビちゃうわー!」
俺が持っているのとは反対側を持ち、布団をめくったのは一織だった。
誰よりも早く目覚めた一織は、誰かが起きるのを待っていたらしい。布団の中をめくった後、その中に足を入れて蹴ってきた。
「説明しろ」
「オレのしわざとちゃうし」
「じゃあ、誰の仕業か推測しろ」
「おうぼうや……」
俺よりは大きいが、小さい一織を布団の中から見上げ、俺は目元に片手を持っていき嘘泣きをする。一織は騙されてくれなかった。
「はやくしろ」
またも布団の中に入ってきた足に怯え、俺は言われた通りに考える。
寝る前、良平、青磁、会長、一織という、珍しい面子でカードゲームをして遊んでいた。会長が異常についていて、そろそろ俺が賭ける食料がなくなりそうだというときだ。急に眠気が襲ってきて、寝た。
そして、起きたら、俺の身体は小さくなっていたのだ。
「……かいきげんしょうとかちゃうかな……」
「バカ言うな。どうせ、追求とかのせいだろ」
「わかっとるんやったら、オレにかんがえさせんでもええやん」
また嘘泣きをすると、一織が蹴ってきた。足癖の悪いお子様である。
「ちゅうか、これ、みんななっとるん?」
「少なくともこの部屋にいる連中はなっている」
一織が持っているのとは逆の方から顔を出すと、俺は部屋を見渡した。
良平はソファの上で偉そうに横になっており、いつもならはみ出すだろうそこに、いい具合におさまっている。その良平に寄り添うように、ソファを枕に青磁が寝ていた。その姿も小さい。小さいが、憎いことに大きかった。青磁は今でもでかいので、そのままスクスク育ったのだろう。本当に憎い。
そして何故か机の下に隠れるようにして、身を丸くしていたのは会長だ。こちらからは顔も見えるのだが、眉間に皺を寄せている様子は、幼いながら険しい。
こうして幼い皆を見ると、美人は小さい頃は不細工だという迷信は、やはり迷信だと思えた。
俺からついに布団を剥がした一織はもちろんのこと、その弟の会長は、金持ちそうな雰囲気が隠せない子供で、良平は今より温もりが残っていて、可愛らしい部類にはいる。青磁など、年齢より上に見られそうだが、既に男前のきざしが見られた。
世の中はこんなにも不公平に出来ているんだなと思わずにはいられない。
「あーかいちょうとおひぃさんあれやな、さすがに、としのさがみえるけど……なんちゅうか、いきうつしやな」
「そうだな、小さい頃のほうが似ていた」
しげしげと俺を見下ろす一織は、少し不思議そうな顔をした。
「白……いや、金?」
「ああ、これな。じげやで。ちゃいろにそめとるん。プラチナブロンドはめだってまうからなぁ」
「目立ちたくないのか」
「ヒトにまじるっちゅうのは、ええぼうぎょほうでな。わるいことしてもとくちょうすくないほうがさがしにくいやろ」
そういう意味では、世の中不公平でよかったなと思うところだ。
しかし、一織は違う感想を持ったらしい。
「似合ってるのに」
「おおきに。せやけど、こーくんもうっとうしいから、ちゃでええねん、ちゃで」
こーくんが鬱陶しいについては、同意するところがあるようだ。一織はそれ以上、俺の髪について何も言わなかった。
「しかし、さんにんともおきひんなぁ。おこしたったほうがええのかなぁ」
「十織は焦って使い物にならないかもしれないが、良平を起こしたら、恐らく青磁も起きるだろう。さすがにハブにするのはかわいそうだから、全員起こすか」
「ああ、ちょっとええやつやな、おひぃさん」
「惚れたか」
「ないわ。ほんじゃ、りょうへいおこすわ」
飛んできた舌打ちも、まだそれほど鋭くない。舌をうまく打ち付けることが出来なかったのだろう。可愛いものだが、小さい子供がやっていると思うと、大変世知辛い気分になる。
俺は知らないふりをして、ベッドから飛び降りると良平の寝転がるソファに向かった。

つづく


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