俺は5とかかれた標的札をぶち抜いたあと、ざっとこの辺りの気配を探る。
「この射撃大会、面倒すぎるだろ」
この射撃大会にはルールがあった。
もちろん、どの射撃大会にもルールはある。この学園の射撃大会なのだから、特殊ルールの一つや二つ覚悟もしていた。
足の引っ張り合いはアリアリ、致命傷を負ったら離脱はいつものこと。
「スポーツ的なのやってみたかったんじゃない?」
「岩登るとか、やたら山道が険しいとかそのせいか」
この射撃大会の勝敗は、誰よりも早く誰よりも正確に標的札をぶち抜くことにある。
その標的札は巧妙にコースに隠され、時には参加者に隠され、奪われ…とにかく面倒だ。
気配を追ったり隠したり、拡散したりすることが得意な俺は標的札を隠してあるだろうな。と思われる場所に赴き、1から順に打ち抜くことしかできない。
幸運にも、三番札は俺を襲ってきた連中の一人が持っていたため、離脱後にそれをぶち抜き、今現在、俺が持っている。
「ところで、三番札誰が持ってるか知らない?」
なんてわざとらしく聞いてくる早撃ちに俺はにこりと笑う。
四番札と五番札まで確認しておいてからきくのか、この野郎。
射撃大会に用意された標的札は八枚。
残り三枚。
俺は六枚目を誰が持っているか知っている。そして、七枚目がどこにあるか知っているといっていた早撃ちは、三枚目の札を探している。というか、俺が持っていると当たりをつけている。
「じゃあ、六枚目の札と七枚目の札、出せ」
「わお。なんで知ってるの?」
「なんでだろうな。七枚目は知ってるっていってたときになんとなく。六枚目はさっき回収していたのを見た」
「あれーみられてたー?てへ」
「三番札出してやるから、六番七番」
「えーそれって、俺だけに不公平じゃなーい?」
ヒュンヒュンと六番七番を放り投げた早撃ちの後方へ三番札を遅れて投げる。
邪魔してくる連中、三番札を探していた連中が混雑する中、早撃ちは六番札と七番札に一発ずつくれると、三番札に狙いを定める。
やると思ったんだよ。
六番札と七番札の軌道が早撃ちの銃弾によりそれる。
俺はそれが銃弾によってそれた先を計算。魔法石を二つ用意し、一つ投げ、もう一つ手に残す。
「展開!」
二つの石は魔術を発動させる。
再び現れた猟銃を構え、六番と七番の軌跡が重なるその場所を狙って一発うったあと、俺は更に走り出す。
「あっれぇ…三番札、どこやったの?」
「転送陣の中にランダムに、石の効力が切れるまで転送され続ける」
「鬼仕様だねぇ…通りで、石使わないはずだよ。置いてきたのねぇ…俺は撃ちぬかせてもらったけど」
何人があの三番札を撃ち抜けたかはわからない。
自動補正機能によって何度もよみがえるその札は、八番に次ぐ難関になったに違いない。
「それにしても、ひどくない?八番、あんなところにうちあげたの、反則くんでしょー?」
「序盤で見つけたもんで」
スタート地点の踏み固められた地面に埋っていた八番札。
学園のことだ、スタート地点に一枚あるだろう。と、踏んだ俺は皆が踏み荒らしたスタート地点でそれを見つけた。
実に不自然に踏み固められていただろうに、皆が踏み固めてしまったあとだったから、実に自然に馴染んでいた。
その札を放り投げられるだけ投げて、長距離銃を召喚、二度ほどうちあげた挙句、落ちてくる前に超長距離銃で飛距離をのばし…簡単にいうと、その辺で一番高い場所に打ち上げた。
そこは、学校の時計台の屋根だった。
「あんなの、フィールド外なんじゃないの?」
「校舎の見える範囲でやるってことは、それなりに対策ねってるんじゃないか?普通なら、フィールド結界防壁であそこまで飛ばないだろ」
それもそうか。なんて頷いた早撃ちは、七番と六番を回収しつつ、邪魔してくる連中を撃ちつつ、四番と五番の札を撃ちにいった。
俺はというと、気配をけしつつ、邪魔してくる連中をまいて、ある場所で、再び超長距離用のバネッサちゃんを召喚する。
完全に消した気配をそのままに、スコープで拡大された八番札の上空に狙いを定める。
八番札を学校の時計台の屋根にうちあげたあと、俺はちゃんとあることを頼んでおいたのだ。
放物線を描いて舞い上がる八番札をスコープにとらえてすぐ、俺は引き金を引く。
天気は良好。
フィールドの緩い魔術妨害を突き抜けて、建物から吹き抜ける風に揺らされた弾は、八番札を貫く。
スコープを下に向ける前に、俺は、ひとことリンクで呟く。
『オッケー』
そして、八番札は俺の隣にカランカランと音を立て、落ちてくる。…転送されたのだ。
『1位?』
『たぶん』
スコープ越しに緩く手を振ってくる良平に見えていないだろうが頷いて、俺は足でその場におざなりに八番札を埋めた。



「と、いう運びやってんけどな」
「それは…第三者をつかってよかったのか?」
温泉で牛乳を一気飲みしたあと尋ねられた大会の顛末を話す。
「んールールがなぁ…魔法オッケーやってんな」
「ああ」
「つまり、召喚オッケーってことやんな」
「ああ」
「リンクで召喚しようが、連絡で召喚しようが、召喚は召喚やんな?」
「……屁理屈」
「けど、こうやって1位貰えとうしな、よかってんやろ」
隠してなかったし。
といった俺に腑に落ちないという顔をしたのは、温泉合宿についてきた一部だけであった。
ちなみに、俺に大会の顛末を尋ねた副会長はそんなもんか。と納得していた。



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