俺は首にかけていたタオルに石をいれ、投げる。またはところどころに仕掛けてある簡易投石器の装置を踏む。割とわかりやすく配備されているそれを誰もが踏むことなくやってきたのは、どうせ俺が仕掛けたんだろうと危ぶんで、皆が避けてくれたからだ。おかげで残弾は多い。
これも普段の行いだな。
「仕掛けが多い!」
一織さんもお褒めくださいました。
「チェストー!」
そうこうしている間に青磁の攻撃をかいくぐって早撃ちが缶を蹴り…出せなかった。
「てぇっ!」
『反則くんをなめてはいけませんねぇ』
『缶も問題なく処理済』
そう。俺は魔法石がなくても、すこしばっかし魔術が使える。なぜ今まで使わなかったかというと、缶に魔術を使っていたからで。
『作動条件付きの魔術式のようです。こんな魔術が長けているとか、本当に反則ですねー』
『そろそろ狙撃の名前は消してしかるべきだろ』
先輩方、本当に。本当に、言いたい放題ですね。
って、首を思い切り縦に振るな青磁。
しかし、その青磁も首を振って攻撃の手を緩めるなんてことはしない。早撃ちが小さな結界を蹴って痛がっているうちに、糸で捕らえる。
『早撃ち離脱でーす。残るは近々の二人と人形使い……アヤトリと猟奇はどうするんでしょうかー?』
『あらかた片付いたら直接対決だそうだ』
ええ、さすがに完璧には買収できませんでした。
青磁が良平に加勢しているようだが、俺はそれを見守る暇もない。一織が今度接近したら、俺は終わりそうだからだ。残弾が早くも残り少ない。
そこにやってきたのは、クレーンゲームのぬいぐるみ。
『おっと、人形使い、どうやらクレーンゲームのコツを掴んだようです。いやぁ。ファンシーですねー』
『いや、情報によると、クレーンゲームの出口から魔術の糸をつないで、三、四匹操って次々と外に出したようだ』
『あれー?クレーンゲームだいなしですねぇ?』
最初にその手段に出なかった人形使いの律儀さ。
俺だったら出口からどころか、クレーンゲームのガラスを割っている。
「合体ぃ!」
と思っている間に人形使いあやつるぬいぐるみ達が複合合体……組み体操みたいになっているが。グラグラしていて…大丈夫だろうか。
しかし、俺にはそれに構っている暇はない。
決定打になりそうな罠はここには仕掛けていない。そして投石器の石がなくなった。俺は駆け回る。
「いッけぇ!」
人形使いを邪魔する者は誰も居ない。
何せ舞師に二人がかりだ。お陰で舞師は木刀を失っているが、避ける避ける華麗な舞だ。しかし、それもすぐ終わるだろう。
合体ぬいぐるみキックは、人形使いの手により結界を破壊され、邪魔されることなく缶を蹴る。蹴った、が。
『さすがにぬいぐるみの蹴りはかるいですねぇ…』
『缶に石も仕込み済み。反則はそろそろ卑怯に改名するか?』
石どころか、砂利、砂、水まで入れたが、何か?
短い木刀が頬を掠める。チリリと痛いというか、これ、もうしにそう。
『さて、そうこうしている間に舞師、人形使い離脱でーす。さすが、名主従は隙を逃しません』
『そして、暗殺者の邪魔をしない』
「いや、馬に蹴られるかなと」
「蹴られないから助けろよ!」
思わず叫んでしまったが、良平はへらっと笑うばかり。そして気がそれたら大変なことになってしまうため、これ以上なにもできない。
悔しくなんてないっ!
「なんだ冷たい。相思相愛だろう?」
「いつまでソレを引っ張る!」
結構前の話だ。
俺は漸く辿り着いた大型の罠を背に一織の攻撃を避ける。
一織はからがら逃げた俺の背後へ。
かかった!
俺は足元の石を足で少し持ち上げる。
すると一織の重みで抜ける底。
網と石を使って作った大型の落とし穴だ。
落ちていくときまで足をチラ見せするだけとは一織の浴衣の着こなしが気になるところだ。
『協奏が去年掘った穴をフル活用だな』
『あの網まだあったんですねー』
『あの網にとらわれて動けなかったのは、もういい思い出だ』
またあんたか。
本当にフル活用させていただきましたが。
「と、一安心した所で」
良平、それは蹴るとは言わない。踏む、だ。
と思いはしたものの、中身いっぱいのそれを蹴り上げるのは難しいだろう。
良平は缶の側面を足の裏でゆっくり押して倒した。
『はい、しゅうりょーう!今回の勝者は猟奇でーす!』
『ちゃっかりしているな。正に卑怯反則の相方だ』
「猟奇、褒められてるぞ」
今は仮面もしていない良平は変装後の姿でニヤァ…と笑って見せた。
「先輩方、賭けの売り上げ三割ください」
確か、新しく魔道書が欲しいといっていた。
後々、追及が良平に賭けてぼろ儲けしたらしく、そこからも何割か徴収して新しい魔道書を買っていた。
俺の財布には天使が舞い降りて、暫く質素な食生活を送ったよ…会長に嘲りの目で見られながら。
…負けないっ。