そんなわけで青い海、白い砂浜。
ボールで遊ぶ武器系。
何故か城をつくっている魔法使い系。
そして、それらをぼんやりパラソルの下で眺める遠距離系な俺。
いや、皆若いねって、俺同じ年くらいなんだけど。
武器系のボール遊びは激しすぎて、正直参加したくない。
同じ意見なのだろう。浮き輪に身を任せ偉そうに足を投げ出して海にプカプカと浮いている副委員長がぼんやりとボール遊びを眺めている。
どうでもいいが、その格好だと、海から見えていないからいいけれど、見えたら大変情けない格好をしていないか。別に見えてないからいいのだが。
しかも海だから沖に流されていっている。自分でどうにかできるだろうから忠告もしない俺は薄情なのかもしれない。
そんな、副委員長を背景にボール遊びは白熱していた。
「くらえ!」
将牙が叫んだ。
ボール当ててワクから人を追い出すゲームじゃないのだから、喰らわしたら反則である。
手で叩き落したボールは、振りかぶった分だけ速度を上げ、砂地へと叩きつけられるかとおもいきや、良平によってそれは阻まれた。
しかもかなりの横着で。
「展開」
何かが風を切る音がして、ボールはその何かに当たって宙を舞う。
…良平のマジックサイスだ。
そのボールを音もなく飛び上がった一織が振りかぶった手で叩き落とす。
将牙と舞師…双子の陣地にボールが吸い込まれた。
「委員長!あれ、反則じゃねぇの!?」
「良平さんがすることはすべて正しい」
審判に青磁をもってきたあたりで間違えている。
不意に視点を変えると、既にこちらから見たら点にしか見えないかもしれない背景の副委員長が焦っているのが、俺には見えた。
流されていることには気づいていたんだろう。どうやら浮き輪が抜けないらしいというか、浮力が仇になって足を穴から抜くことができないらしい。そうこうしている間にどんどん流されていっている。
そんな風紀副委員長を背景に、今度は魔法使いたちに意識を向ける。
魔法使いの砂の城創りは何故か本気だった。
まずは簡易ながら設計図がかかれていた。
いや、最初はここが俺の部屋で、ここが書斎で…みたいな理想の家の間取りだったのだが、だんだん、じゃあ立体を作ってみようかという話になり、結果、暴走に暴走を重ね、城をつくる話になっていたのだ。
小さい城かと思いきや、人形使いがゴーレム構築のように海水と砂でブロック状に構築し、そこに一切手を使わず会長が組み立ていく。何故かボール遊びに混じらなかった双剣が真剣にそれらを補強している。
追求は何故か指示係になっていた。
何か公式をかいたり、陣をかいたりしていたが、それを実践する様子はない。
「ボクは構築するのは得意だけど、実践は不得意だからね」
無駄に偉そうに発言していたのを耳にした。
どっかの風紀委員長の主人自慢のようで、なんだか哀れだった。
哀れといえば副委員長。やっと足は抜けたようだが、浮き輪をどうするか悩んでいる。
足がつかない場所まで流されてしまったらしい。
浮き輪を前に持ってバタ足をするのか、どこかにひっかけて足のつくところまで泳ぐか悩んでいる。誰も見ていないとは言わないが、俺以外は見ていないのだから、とりあえずバタ足でもなんでもして帰って来ればいいのに。想像するだけでちょっとシュールだが。
副委員長が悩んでいる間にも、ボール遊びは終了したようだ。
ちなみに、終了の合図は将牙の『審判が不公平すぎる!』だった。
だから、青磁を審判にした時点で間違っている。
良平のこと以外は公平なほうなのだが、良平が絡むと良平中心なんだから。
「…魔法使いどもは何やってるんだ?」
ボールを人差し指の上で回しながら首を傾げた一織に、俺は答えた。
「城作っとう」
「いや、それは見ればわかる」
「いやーそれより、副委員長おもろいでー。今浮き輪持って平泳ぎしよるん」
「は?……あれがみえるのは、お前くらいだろ」
魔法でちょこっとドーピングもしているので、とてもよく見えます。
副委員長は浮き輪を持ってカエルのように泳いでいる。美形台無し。
ボールが指の上で勢いをなくすとそれを他の指を添えて止め、そのままポンと宙へ上げ、肩でそれを受けたあと、腕を伝いもう一度手のひらへ。
「ひぃ、器用やねぇ」
器用とかの問題ではない気がするのだが、あえてその一言をいったあと、俺はもう一度魔法使いの暴走に目を向ける。
立派な城のなかに良平がはいって、作業に混じり城を補強している。
どうでもいいが、周辺が穴ぼこだらけになっている。
ビーチもいい迷惑だ。
「大変な問題が生じました…!!旗が!旗がありません!!」
それは城にたてなければならないのだろうか。
追求の声に、城創りに従事していた魔法使いたちが一様に絶望を顔に浮かべた。
立てる必要ないと思うのは俺だけか?
「なんや他の武器系が城んなか入ろうとしとるで」
「入ったら、魔法使いに許可を得て埋めてやらないか」
「その話、のるわ」
俺は返事をしながら、浮き輪を肩に引っ掛け、最終的にクロールでかえってきた副委員長にでっかい水っ鉄砲で水をかけてあげた。
「淡水やで、嬉しやろ」
「………、何が…ッ」
疲れきっているようだ。
ご苦労様です。
たぶんでっかい水鉄砲から発射される水は肌に痛いだけだったろう。
結果だけいってしまうと、青磁はフラフラっと良平によっていったため無事だったのだが、双子が埋もれた。
「なんで、反則野郎を埋めないんだ?」
心底不思議がっていた会長に涙がでそうだったよ。
いじわるいくない!
副委員長が腹を抱えて笑っていたが、自分のこと棚に上げてるね。俺はちゃんと見ましたからね。あとでたくさんみんなに話してあげよう。と、思っていたにも関わらず、皆全力で遊びすぎたのか、帰りの電車の中で起きているのは、俺と一織だけという事態に陥っていた。
「…今日、キョー遊んでたか?」
「めっちゃ見とったよ」
「参加しろよ」
「やって、普段あんなに動いとんのやで、お父さん休日だらだらしたいんやって…」
「じゃあ、俺もおとうさ…」
「うん、お母さん言わんあたりには、好感もつけど、『も』になんや含みをかんじるでー」
「気のせいだ」
今度旅行にいくなら是が非でも俺も疲れて寝てる組に混ざろうと決心した。