だが、その何十倍の敵がどうなっているかもわからない状況の中、俺の目だけは、それについていった。
逆に、俺の目には、それが適度というようによく見えた。
見えると、解ると、身体が動くは別のものだ。
見えたとて解らなければ、何が起こっているか解らない。
見えたとて解らなければ、身体は動かない。
見えて解ったとしても、身体が動かなければ、ついていくことはできない。
ただ、俺の持っている銃は中距離銃ではなかった。
物陰から、相手を狙い打つことにより、自身の危険を減らすことのできる武器だった。
そして、集中力はおそらく、中距離銃を持つ同年代の人間より飛び抜けてあったのだと思う。
口では文句を言いながら、銃弾が尽きるまで撃った。
シュミレーターは、現実をシュミレーションする機械だが、現実ではない。そして、中等部の人間が使うシュミレーションはリアルよりゲームに近い。
銃弾を差し替える動作さえすれば、弾はいくらでも入る。
選び放題といってもいいくらい出てくる敵を逃すことなく倒してしまうには手数が足りない、スピードが足りない。
それでも、俺は撃つ。敵が撃破されたかどうか確認する前に、次を見つける、次を撃つ。
混乱してはならない。
動作が遅れることは致命的だ。
確実性は捨ててはならない。
すべてを撃つことが不可能なら、より強く、自分のできるギリギリで。
一定の場所にとどまると見つけられる。
部屋は一定の広さしかないが、ベルトコンベアーのようになっている床は走るに合わせて動く。そしてホログラムもそれに合わせて場所がうごく。
足りない。
今度は体力が足りない。
息を殺すこともままならないまま、腕だけはしっかりと銃を支える。
銃口はぶらさない。
ここにきて先生の見えすぎるという話が解った。
右の獲物を狙っているはずなのに、左でチラチラする敵を、斜め後ろにいる人間を、認識している。
それが何かというのが、最初はわからなかった。
見慣れると、そこに何がいるか、誰がいるかということを認識し始める。
俺は、解るようになっていた。
それは火事場の馬鹿力だったのかもしれないし、才能の開花だったのかもしれない。
よくわからない。
けれど、その時の俺にはよく見えた。
左で何かされる動作が見えたのなら、先に移動してしまえば、攻撃された時に避けるより早いし容易い。
それがわかれば、回避率はぐんとあがる。
これなら、なんとかなるかもしれない。早くシステムが落ちれば楽になるしこれで飛ばしてみよう。
けれど俺は知らなかった。
ある一定のレベルに達すると勝手にレベルが上がること。
シュミレーターは遅くなるのではなく一定の負荷がかかると、急に電源が落ちること。
知らずに、キリキリ動いた。
銃がもうひとつあれば、いや、色々、あの銃があれば、この銃があれば、いや、予測できるのなら、そこに罠を仕掛ければ…。
姑息な子供だった。
そして、電源は急に落ちる。
「……?」
声が出なかったのは疲れていたからに相違ない。
この時、大事にしたかった数値は出なかった。
しかし、映像だけは残っていて、あとから見た俺も、動いている俺が非常になんというか、鬼気迫るものがあって、やってしまった感いっぱいだった。
声がでるぐらいになるころ、俺は少し焦った。いつまでたっても電源がつかない。少し焦って、幼馴染に連絡した。
「シュミレーター壊してもた。やってもたー…」
計画的にやったことであったのだが、まさか演算機能がついていけないような予測不可能なことをしているとは思っていなかったのだ。
負荷をかけていたが故に容量が足りず…人間的にいうと、いっぱいいっぱいで考えいたらなかったが故に、ついていけなかったということらしい。非常に申し訳ないことをしたと、今なら思う。
このシュミレーターが壊れてしまったのも、シュミレーターが古かったのもあり俺だけが原因ではなかったので、弁償などにはならなかったのだが、何故か新しいシュミレーターをいの一番に使わされた。
高得点をたたき出して、早くも壊れていると疑ったのは仕方ないことだと思う。