シンプルストーリー


最初はいつものメンツで出かけていた。
学園の外周部分とでも言おうか、小さな町のような場所がある。
そこは学園の関係者の一部が住む場所で、広大な敷地を使いたいばっかりに荒地にぽつんと建った学園のためだけに存在している町だった。
そこにたどり着くやいなや、各々が好きなように散らばる。
俺が欲しいものを購入できてホクホクとしていると、向かい側から一織が歩いてきた。
「ナッツ系のつまむものが欲しいんだが」
「あー。それやったら、俺がいっとった店にあるわ。ちょい入り組んだトコにあるしなぁ…一緒に行こか?」
俺が購入したのは、ドライフルーツだったのだが、そういった食べ物と一緒に売られがちなのがナッツ系の食べ物だ。
案の定、俺の行った店にもナッツ系の食べ物がおいてあった。
「ああ、それなら一緒に」
そうして、俺と一織は一緒にとある店に行くことになった。
時間に余裕はあるためゆっくり歩きながら、なんということはない話をする。
「何買ったんだ?」
「フルーツミックス」
「色々入ってんのか?」
俺がおすそ分けに一個取り出す。酸味が強いフルーツがいい感じに甘くなったそれを受け取り、一織は一つ食べて頷く。
「うまいな」
「やろ?あっこの店めっちゃ、おすすめやで」
「ナッツとドライフルーツミックスしたものもあれば欲しい」
「あるある」
俺が頷くと、しばらく一織はもごもごと口を動かし、ゆっくり口の中のものを嚥下すると、まったく違う話を持ちかけてきた。
「ところでキョーは、なんであいつが好きなんだ?」
「……ほ?」
唐突すぎて言葉の意味が理解し難く、聞き返すと一織は俺のドライフルーツの入っている、口の空いたままの袋に手を突っ込み、一つドライフルーツをとっていった。ああ、俺のドライフルーツ。
「で、なんで好きなんだ?」
「えー…と、それは、弟君のことですやろか」
「それしかねぇだろ?」
俺から奪ったドライフルーツを口に入れて、噛みながら、俺の答えを待つ一織の歩はゆっくりながら止まらない。
俺は再びドライフルーツを奪われないように袋の口を閉じながら、少し考える。
袋の口を閉じると、一織が少し残念そうな顔をした。
「せやねぇ、くわしーくお話するとちょーっと時間を要するからな、簡単にしてまうと…可愛いから、やなぁ」
「はぁ?いや、可愛いといえば、可愛いかもしれねぇけど」
普通に見ると、かっこいいが先立ってしまう会長のことを、たぶん誰より知っているだろう一織は一応俺の意見に否はないようだ。
しかしながら、普通に見て可愛いとは言い難い会長を可愛いと称する俺に不満があるようである。
「正直、普通に考えたら可愛くなんやけどな。俺のこと毛嫌いしとうし。けど、それでも、可愛い思てるとこが好きいうことちゃうかなと思とる」
一織の眉間に皺が寄る。
「臭い」
「あー…でも、聞いてきたん、ひぃやで…」
「そして、腹立つ」
「いや、あのね?」
俺のドライフルーツの袋を奪って少し前を、一織が歩く。
先ほどと違い、少し、速い。
「……なんで……、ねぇの…」
袋を漁る音にまぎれ、ため息みたいに落とされた、小さな声は聞こえなかったことにした。
「つうか、ちょっと、俺のドライフルーツ!」
「悔しかったら追いついてみな?」
「いやいやいやいや!おひぃさん学園一のスピードでなに言うてくれてますの!?ちょ、マジ、返して!」
そんなこんなでちょっと追いかけっこに時間を使ってしまったが、目的のものも買えた。
俺のドライフルーツは半分位になってしまっていたけれど。
一織さん、容赦ないです…。
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