残念ながら、魔術都市で魔法使いにならんとしたガリ勉は、純粋な魔法使い家庭ではなく、魔術師連中を守るために派遣された傭兵とうっかり恋に落ちた魔術師というより、学者に近い人間との間に生まれていた。
俺は、傭兵の父に色々叩き込まれていた。いろいろな場所へ出稼ぎにいく父のかわりに母を守るように、自分の身が守れるようにという父の家族への想いがそうさせた。
そんなわけで、俺に油断しきっており、しかも色々諦めていて、さらにまだ自分自身のできるだろうことさえ探していなかった駄犬など、簡単だったのだ。
俺は押し倒され、ぽかんとしている駄犬の頭をそれはもう抵抗される前に、撫でた。なでてなでて、くしゃくしゃになって駄犬が俺の手を払う頃には、俺は大変満足していた。
「いいな、欲しい」
駄犬曰く、エロかった。
思春期の青少年がドギマギするくらいのは、性的に微笑んでいたらしい。
その時の俺はグレてるし悩んでいる真っ最中で、何も手に入らないと思ってるところだった。
欲しいものは手に入らないものだから、駄犬も手に入らないかもしれない。
それでも、諦めは悪い。
「手に入れたら、他のものはどうでもよくなるかな」
諦めてはいなかったが、自棄だったと思う。
その言葉が、駄犬に刺さるなんて思いもしなかった。
駄犬からしたら、切ない言葉であったし、鋭い刺もある言葉だ。
駄犬は諦めていた上に、俺以上に腐っていた。
こいつに手に入れられたら、腐りながら未練を残していることも、どうでも良くなるというのなら、それでいいんじゃないかとも思ったらしい。
残念ながら、俺はすぐに行動にうつさなかった。
俺を探しにきた生徒会役員に連れられ、俺は見学に戻り、駄犬を放置して実家に帰った。
もし、駄犬を手に入れて他がどうにでもよくなるんなら俺は、諦めようと思ったのだ。
駄犬が手に入らなくて、それを諦められるのなら、俺は別の道を探そうとも思った。
だからこそしつこかったのかもしれない。俺は生徒会役員に駄犬のことをきき、駄犬が退学するということをうまいこと聞き出したあと、駄犬が退学する際に、駄犬を引き取った。
まさに、拾った。
駄犬は帰る場所なんてないとかいって俺についてきたのだが、のちのちきくと、家出状態だったらしい。殴って一度実家に帰らせた覚えがある。
とにかく駄犬を拾って帰ってきた日、母はオロオロし、ちょうど帰ってきていた父は息子が人間を拾ってきたことに、呆然とした。
駄犬……青磁は、手に入れられたら楽になるという逃避もあって俺についてきていた。
一晩は預かろうという動きになったのだが、一晩もかからず、俺は理解したのだ。
やっぱり諦め切れない。
俺の部屋にはいった青磁は俺の悪あがきを目にして、自分自身を省みたらしい。
そして、俺を尊敬したそうだ。
そういうところが青磁は柔軟だ。
青磁は尊敬した俺に従順で、抵抗らしい抵抗がまったくなかった。
本当に、まったくなかった。
青磁が犬になった瞬間である。
「やっぱ諦めるとか無理だったな」
性的に撫で回していた訳ではないのだが、青磁を思う存分触り倒し、メロメロでとろとろにしてしまっていた俺は、青磁の頭を太ももにのせたままニヤリと笑った。
じゃあ、とことんまでやってやろうじゃないか。
12歳。俺の道はたぶんここで一度決まった。
何があっても、どういう手段をとっても、やってやる。
俺を尊敬し、俺のそばにいようと思った青磁の道もここで決まったのだろう。
そうして俺達ふたりは、学園に入ることを決めたのだ。
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