テストも反則


 理数系の成績はいいけれど、文法の成績はいつもよろしくない。いつもギリギリ赤にならない程度だ。
「これはやる気の問題だろ」
 解答用紙をみて、一織が呟いた。
「オール九〇以上とかだしよる奴に言われてもなぁ」
 寮のとある一室で、本日返却されたテスト用紙を片手に、一織は眉を寄せた。
 つい先日、座学のテストがあったのだ。魔法や武器を扱う人間でも数学や国語は必要である。字が読める書ける計算できるというのは、強みであるからだ。科学や物理なんかも必修ではないが履修することはできる。
 卒業単位は必修だけでは稼げないため、学園の生徒は色々な授業を履修していた。
 当然、俺も色々な授業を受けている。それのテストが本日返却されたというわけだ。
「理数系で九五以上、読取全問正解をする人間に言われたくない」
 バサッと机に放りだされた解答用紙は文法を取り扱うテスト用紙以外は失点を探すほうが難しい。これは密かな自慢だ。ただ、読取は時間配分を間違えたり思わず読み込んでしまったりしない限り結構な率で全問正解をいただけるものである。
 でも、文法だけはよくわからない。
 特に昔の言葉の文法は意味がわからない。
「大事な言葉が前にくんだよ。わかんね? 魔法式とかと組み込み呪文みたいな…」
「ああー……それはなんとなく。でも、魔法科やあらへんから、その手のテストないし。俺、決まった魔法しか使わんし」
「……でも、副会長は魔法科のテストも受けてるだろ」
「え、おひぃさん、マゾ?」
 武器科には武器科のテストがある。
 良平は魔法武器を選択しているため、魔法と武器のテストを受けるのは仕方がない。
 しかし、副会長である一織は違う。武器科一択だ。
 わざわざテストを増やす必要はない。
「別に座学は嫌いじゃないし、一夜漬けはしねぇし普段となんらかわらない」
 それはとどのつまり、普段から勉強しているということである。
「うわぁ。マゾなんちゃうん」
「それは魔法使い全般に向けての喧嘩か? 買うぞ?」
 今まで自分自身の成績やほかの連中の成績を確かめていた生徒会長が身を乗り出した。そんなつもりはまったくない。
「ちゃいますし。両方選択しとるみたいなことしよるから」
「……それは、俺に対する挑発かね、叶丞くん」
 そう思えば、一応両方選択ということになる良平へ喧嘩を売ったことになるかもしれない。
「やーでも、それは関係あらへんやろ。文法と」
「誤魔化した」
「話そらした」
 良平と一織、二人してこちらをじっと見つめてくるのはやめてくれないだろうか。
「ああ……なら、今やらせればいいんじゃねぇーの、叶丞クンに」
 風紀副委員長がニタァといやらしい顔で笑った。
 人の不幸をすぐに面白がる。嫌な奴だ。
「そりゃいいな」
 風紀は性質の悪い連中しかいないのか。風紀委員長が真っ白な紙と問題用紙をだしてきた。
 俺をじっと見つめる目が十個になった。
「観念しろ」
 座学の成績がもともとあまりよくなく、我関せずを通していた将牙がニヤニヤしながらこっちを見た。だから、見るな。
 その様子を抜け目なく見ていたのは、会計だった。
「将牙は自分のことやれよ。この成績、なんだ。この成績」
 大事なことなので、二度いいました。
 将牙が口笛を吹いた。
 俺の誤魔化しより悪いぞ、それ。
 俺は仕方なくテストを手に取る。
 仕方ないからさっさと終わらせよう。



「これだから、神様なんて嫌いだ……!」
「ありえねぇ……」
「反則の限りだろ」
「何、この定形術式図の正解率。お前、ホント、どうなの?」
「引くわ……実践向きオール正解じゃねーか」
「応用にしたって面白い考え方で攻めてきてる。プラス配点されるんじゃないか」
「だから反則とかいわれてんだよ、お前」
「法術言までできたのか……変態だな」
「え、なんか、みんな、酷くない?」
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