光物に弱かった。


中学の時、つまらなかった。
毎日毎日、同じことの繰り返しで、クラブに入っても何か特別に出来るわけでもない。勉強をしても運動をしても、何か突出してできるわけでもなかった。
特技があるわけでもない。何かしたいことがあるわけでもない。
夏井荘一は特別何かあるわけでもない中学生だった。
特別な何かを求めているわけではなかったし、友人と遊べば楽しい。嫌いな授業もあれば、好きな授業もある。クラブだって、好きで入ったはずだ。
しかし、夏井荘一は退屈していた。
何か、特別、自分自身に降りかからなくてもいい。傍でそれが起こればいいと思っていた。
中学最後の夏休みのことだ。
夏井の求める特別が、おまけ付きで歩いてきた。
祭りの夜のことで、夜店の明かりを反射するようにキラキラ輝いていた。比喩でもなんでもなく、明かりを反射して、その人の帽子についたピンバッチが輝いていたのだ。
夏井は賢くはなかったが、馬鹿でもなかった。それでも、その輝きに特別を見た気がした。
それが、中里竜二との出会いだ。
リュウジは、それこそ特別輝いていたわけでもなかったが、夏井にとって、それは特別だった。
リュウジが通っている学校を調べ、金持ちの中高一貫高校で受験の準備もしていなかった夏井は、焦った。何せ、リュウジはこのあたりでは知らない人間がいない高校の特進科に通っていたからだ。
リュウジの通う高校に入ること自体は難しくなかった。しかし、入ったところで学科が違えば、同じクラブにでも入らない限りリュウジとの接点などゼロだろう。
出来るだけ共通したものが、欲しい。
夏井は頑張った。
頑張ったが、しかし、特進科に入れるほどではない。
それならば、同じクラブにでも入ればいいだろうと、リュウジと同じ高校に入った。
しかし、ここで夏井は、通う予定である工業科が不良の巣窟であるということを失念していた。
入学してまず、その事実に気がつき、いいところの金持ち学校に通っていた夏井は自分自身が場違い、もしくは鴨だということにも気がついた。
そう、入学したその日から、夏井はクラブ活動どころではなかったのだ。
不良の中に飛び込んだ夏井は、嫌味なくらいすらりと伸びた背に、少し赤茶けウェーブのかかった髪の毛。少し笑うと、まるでドラマに出てくる嫌味な金持ちの子息のようだった。
その日のうちに絡まれて、その日のうちに殴り合いをした結果、夏井はもう二つ気がついた。
以前通っていた学校は、色々なもののスペックがおかしかったということと、喧嘩は今までしたことがなかったが、なかなかいけるということだった。
夏井は、この学校では、そう、ハイスペックな人間だったのだ。
それでも、嫌味な金持ち坊ちゃんのままではまずいと、夏井はイメージチェンジをした。
それが現在の不良にしか見えない姿になったのは、ひとえに環境のせいだと夏井は思う。
「夏井、たまにすっげぇ、ピュアなとこあるよな」
「そうでもねぇけど」
「いや、そうでもあるだろ。慣れてねぇっつうか」
だから、たまにリュウジが首を傾げるようなことをしてしまうのは、仕方のないことなのかもしれない。
不良になってしまったとはいえ、あくまで中身は金持ちなだけの平々凡々な男に過ぎないからだ。
「あの態度で告白した割には、キス一つで何を照れくさそうに」
「……てれてねぇけど」
リュウジと待ち合わせていたときに、カップルがキスをしているところを目撃してしまったのだ。
「じゃあ、俺とキスしても照れねぇの?」
好きな人とのキスは特別だ。
しかし、ならば此処で照れないと強がりでもすればからかってキスしてくるのではないかという下心が、夏井の中で頭をもたげた。
「……いや、それは、照れるだろ」
しかし、下心よりも素直に口から言葉が滑り落ちていた。
「へぇ」
聞いたわりに反応が薄いリュウジに、相変わらずひどい人だなと思いながら、夏井は付け加えた。
「男と男がキスしてんなら、別に何も思わなかったが」
「まて、そっちのほうが俺は気になる」

方向音痴と隣の席top