「トリックオアトリート」
言おうか、言うまいか。
悩んだ俺がバカだったと思うくらいあっさりと、出会い頭に言われて、俺はぽかんとする。
「え、あ、ええと」
対応もできずに慌てていると、俺のポケットに手を突っ込んで、曰く。
「菓子がなけりゃ、タバコでも。いや、タバコがいい」
ヘビースモーカーが少し苛立たしげにそう言っていた。
「いやーん、そんなとこに手ぇ突っ込むとか、ヒサヤさんのエッチー」
「すけべな俺は嫌いじゃないんだろ」
その通りですけど、俺としては悪戯するぞをとってもらいたいわけで、ちょっと困った。
ヒサヤさんは俺のタバコのありかを知っていた。
「いたいけな高校生から何をとりあげとるんですか」
「いたいけな高校生だからこそ、取り上げるんだろ」
その通りですけど。
俺は、ヒサヤさんが満足げにタバコを取り出したのを見て、内心舌打ちをした。本当のところ、ヒサヤさんには悪戯をしてもらいたい。
「あ、そや」
「なんだ?菓子ならくれてやる」
そんなことを言いながら、棒付き飴ちゃんをくれたヒサヤさんは、『トリックオアトリート』さえ言わせてくれない。
「……お菓子…」
「この日はいつも出会い頭、一部の生徒だの、昔馴染みだの、同僚だのに言われて常備してんだよ」
「ふうん…」
非常につまらない。
だって、ヒサヤさんにはこのイベントまったく似合わないし、興味もないだろうに、それだけ色々な人から聞かれるのだ。
それだけ、ヒサヤさんが人気があるってことに違いない。
ちなみに、俺にこのセリフを言ってくるのは、ヒサヤさん以外は存在しなかった。俺にいったら非常にまずいと本能で察知しているんだろう。
俺としては『トリックオアトリート』といって、悪戯をしてしまいたいところなのだが、誰もがこの日、俺に近寄らない。
「悪戯したかったのか?」
「…質問さえさしてくれひんかったから拗ねてるんですー」
「お前は本当に、嘘が下手だな」
笑うヒサヤさんは、タバコに火をつけながらこう言った。
「悪戯してみろよ」
「…え」
「してみろよ」
ニヤニヤしながらそういうヒサヤさんは、なんというか、激烈にかっこいい。
そうして俺は、ヒサヤさんに悪戯をすることになったのだが。
「ヒサヤさんのえっちー」
「きらいじゃねぇんだろ?」
「……うん…」
まぁ、その…悪戯されちゃったよね。