どこの風習か知らないが、お菓子をくれなければ悪戯をするものらしい。
叶丞が十織にねだって、一織に迫られていた。
なんとも悲惨で可哀想なイベントごとだなと思って、観察していた。
しかし、言われてみると別である。
「お菓子くれないと悪戯するぞ」
どちらを…!どちらを望んでいるんですか、良平さん…!
俺に向けて手のひらを返す良平さんを見て数秒悩んだ後、俺は菓子を持ってないことに気がついた。
「す、すみません…今、持ち合わせがなくて」
鋭い舌打ちが前方から飛んでくる。
ああ、菓子が欲しかったのか。俺は少しうなだれた。
「使えねぇ」
その一言だけで、俺は1日気分がへこむ。
「そう思えば、悪戯しなきゃいけないんだっけ?」
心底面倒くさそうにつぶやかれるそれに、俺は良平さんの顔もみれない。
「あーあー甘いもの食べたかったなぁ」
わざとらしい言い方だったが、俺は今すぐにでも用意しに行きたい衝動に駆られた。良平さんが少々まってくれるのなら、俺は他の連中から菓子を奪うことにためらいはない。
「青磁」
「はい」
「悪戯するから、こっち向け」
「……」
顔を上げると、良平さんが笑っていた。
俺が何かを言う前に、俺の耳タブにガリッと噛み付いて、良平さんはこう言った。
「お菓子くれても悪戯するけどな?」
耳を押さえて良平さんに何か言おうとすると、良平さんはさっそうと立ち去ってしまった。
後で良平さんの部屋に菓子を持っていかなければ。 なんとなくそう思った。
「委員長ちょっと。気持ち悪いんで笑わないでくれる?」
「うっせぇ。良平さんがかっこいいからしかたねぇんだよ!」