「あんな、せやからな、そういうイベントやないねんで」
西の方の風習で、お菓子をくれなければ悪戯をする。というものだった。
東の方に伝わってそれだけの風習になりつつあるものなのだが、俺もそれに準じてキョーに言ってみたのだ。
「お菓子をくれても悪戯してみるか」
「一択やん!?」
ツッコミをいれるスピードはさすが。
俺の嫌がらせにも即座に対応だ。
まるで子供に言い聞かせるように、西の風習はこういうものなんだよと説明してくれたのだが、俺もそれはよく知っている。
「仮装してないのがダメだったか…」
「いや、ちゃう、ちゃうよ?なんで、そういうとぼけ方するん?なんや、ひぃ、わかっててしてるやろ?」
そんなことをいいながら、きっちり俺にお菓子をくれるキョーは悪戯を回避したいらしかった。
「それで、悪戯は何がいいんだ?」
「ちゃういうてるのに…そやなぁ、とりあえずきくわ。何があるん?」
「セクハラ、ロッカー、セクハラ、足掛け」
「せやな、セクハラ二回あったとか、足掛けいたそうやとか、ロッカー何するつもりなん?とか思てまうけど、とりあえず、お菓子やったから、全拒否やで」
わからないフリをして首を傾げる。
「言っていることがわからない」
「せやなぁ…かみくだいていうと、菓子やったし、悪戯なしやでってことかなぁ」
「お菓子をくれても悪戯すると言わなかったか?」
キョーのくれた菓子を見ながら、すでに悪戯する気のない俺は会話を楽しむ。
キョーがくれたのは、俺の好きな菓子だった。
「うん、それちゃうってのもいうたやんな。まぁ、もう一つやるさかい、許したって」
もう一つくれたのは、これもまた俺の好きな菓子で、しかも、先にくれたものとは別の種類だった。
菓子をもらえたから、というより、俺の好みを知っていたからということに満足感を覚えつつ、俺は仕方ないといった表情をつくる。
「じゃあ、これで満足してやるよ」
「いや、結局悪戯すんねやな」
キョーの顔にぐいぐいはんこを押したあと、それを満足げに眺め、俺は立ち去る。
「…お。一織、自分のものには記入か」
「え、もしかして普通の印鑑やったん、あれ…ていうか、俺ひぃのちゃうやん…」