狼男・実美



「菓子なんて持ってるように見えるか?」
見えなかった。
馬鹿騒ぎが好きだ。
百円均一と大手量販店で買ってきた安い仮装セットをチーム内で配り、遊んでいたときだった。
シマがいつも通りやってきたので、ハロウィンのルールに則ったつもりになって聞いたのだ。
「じゃあ、悪戯してくれ」
「するんじゃねぇの」
「してもいいけど、シマにならされてぇ」
首の後ろに手を回して笑うと、腰に手を回しながら、シマは俺の頭の上にある耳を引っ張った。
「コレ、どうなってるんだ?」
「なんか、パチってつけるやつ」
「……ピンな」
「そう、パチってつけるやつ」
俺は髪を飾るものがなんと呼ばれているかなどということに興味はない。今興味があるのは、俺の腰に手を回している男だ。
「シィマァ」
「悪戯っつっても色々あるだろ」
「シマなら、期待するのは一つだ」
「もう少し想像力たくましくしてもいいはずだ」
「一つの中に色々含まれる」
「そりゃあまた、たくましいことで」
菓子を持っていないのなら、大人しく悪戯すればいいものを、シマは無駄な抵抗を試みる。いつも悪戯がすぎ、反省して謝りにきてくれるシマからすれば、できれば避けたいことなのだろう。
「これもどうなってるんだ」
「安ピンでついてる」
「……それはちゃんと名前が出てくるんだな」
いくら俺でも、安全ピンくらい知っている。……用途としては耳に穴を開けるために使うというものなのだが、知っていた。耳に穴を開ける機械や道具は色々あるが、あれは安上がりだ。しかし、あまりいいものでもないらしい。
そんなことより、シマだ。
いい加減、悪戯をしてくれてもいいだろう。
「悪戯」
「してもいいが、この仮装はなんだ?」
「狼男」
「狼男がこれでいいのか」
狼男なら襲ってしかるべきとでもいうのだろうか。俺はそれでも構わないが、悪戯するのはやはりシマである。
「まぁ、実美ならいいか。可愛いし」
「可愛いのか」
悪戯してくれないシマに不満な顔をして睨みつけると、シマが楽しそうに笑った。
「可愛い可愛い。安い仮装だけどな」
高い仮装なら悪戯してくれるのかよと言ったところで、シマは笑うだけだ。シマをその気にさせるなら、怒らせるに限る。しかし、怒らせてしまうとまたしばらく会うのも辛い。気分は悪くないのだが、あの状態は本当に辛いし、シマに会いたいが会いたくなくなる。
「悪戯しねぇならいい。帰れ」
「冷たい恋人だな。帰りたくないから、悪戯するか」
そうして、俺はシマに悪戯して貰えた。