「というわけで、先日から嫌々ながらボスに就任することになった斎慶賀だ」
めでたく現生徒会長と風紀委員長を恋人にしてしまった後、俺はボスとしてお披露目されることになった。
朝の集会で、おまけとばかりに説明され、壇上で適当に挨拶したあと、さっさと舞台袖に引っ込もうとしていた俺を引き止めたのは、Fクラスの連中の声ではなく、教師陣の雄叫びだった。
そう思えば、俺が会長からおりることを一番嫌がったのは教師陣だ。先生方には何一つ影響を与えるようなことはしていないと思うのだが、彼らはいったい俺に何を期待しているのだろう。
続いてあがったのは、冷やかしの声だ。もちろん、それは同じクラスの連中で、指笛を吹いたり、ドS様とよいしょしてみたりと騒がしい。
一番静かなのは一般生徒と呼ばれる連中で、何故か泣き崩れたり、俺の名前を呼んで、解散ライブか復活ライブかという様相だ。
各役員連中は、いい仕事をしたという顔をしているし、手懐けている連中にいたってはキラキラとした目でこちらを見ている。
この状況にぽかんとしているのは、下界の他校生徒で、あまりの置いていかれぶりが可愛そうに見えた。
可愛そうだったのでちょっとした悪戯心で巻き込むことにした。
俺はマイクの元に戻り、もう一度口を開く。
「非常に私情で申し訳ないのだが、そこな栄聖の会長とお付き合いをすることした。邪魔をするなら、気合い入れてしろ。するなとは言わないが、こちらもそれ相応の態度で望ませてもらう。以上」
そして、いっせいに栄聖の生徒会長に向く視線。
その視線を独り占めした俺の友人であった至成(しじょう)だけがこちらを向いて呆然と呟いた。
「きいてねぇ」
呟かれた言葉を読んで、俺は極上と呼ばれる笑みだけ返し、舞台袖へ颯爽と引っ込んだ。
俺もやつに言ってやった覚えもなければ、そういった意味で好きだと言った覚えもない。
そう、悪戯心だ。
悪戯心にしては、人の気持ちを弄びすぎではないだろうか。
しかし、恐らく他の生徒をイライラした気分のまま威圧しているだろう、たった今恋人にした男の様子を想像し、楽しくなってきた。
そう思えば至成には結構きわどいことを言って困らせているなと、記憶を辿り、かちりと合わさる記号に、頬が緩む。
ああ、好きなやつは苛めたいってやつか、なるほど、理解した。
これから存分に苛めてやろう。
おわり