着席



今でも、夢を見る。
一度も触れることのなかったあの手が、冷たいとも暖かいとも感じない作り物の温度で、俺に触れる。
俺はその作り物の手に釣られたように顔を上げる。
一度見たら忘れないような嫌悪を感じるその姿が、なにかのもやがかかったように解らない。
違う、俺はそうしたいんじゃない。
そう思って振り下ろした武器から伝わる感触ばかりが、本物。
はっとして目が覚める。
そうではない。昔はこんな夢ではなかった。
けれど変わらず残る手の中の感触に、俺は手を握ることしかできない。
上半身を起す。
リツが息を潜めて、笑っているのが解る。
それは、俺の様子になんの夢を見たか解ったから零れたものだ。
リツは俺の守護をしたあと、今は式をしている。
けれど、厚意ばかりでそれを行ったわけではない。
リツは退屈しのぎに俺と契約をした。あれが楽しくないのならば、俺に価値などない。
俺の肩を持つのは、一緒にいるうちに移った情と、俺と化け物の今の状態のせいだろう。
リツは中途半端だ。
弄びきらず、罪悪感を抱いた。
そのくせ、未だに俺を同情だけで見きれない。
「もし、あれが人間で、普通に出会ったらどうだったと思う?」
興味本位が透けて見える。
だが、俺はその興味に軽く答えることができる。
「どうもない」
もし、あれが普通の人間で、俺に普通に出会っていたら、ただすれ違うだけだろう。
男であろうと女であろうと関係なく、あれはその他大勢の一人だ。
今だってきっと、あれは埋もれようとしている。
けれど、俺は見つけてしまった。
あんな化け物を、生き物を、あいつを、見つけなければ、見なければ、俺はきっと、憎み続けられた。
思い出すことなど一つもない。
愛されているなどと知らない。
あきらめることも知らない。
あいつが、一瞬で俺をみつけたとしても。

だから愛している。




end


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