臨時採用で学園にやってきた社美景(やしろみかげ)は、一年経った頃には本採用になり、二年経った頃には年の頃が近い教師のリーダーとなり、三年目の今年はDクラスの教師陣の代表になっていた。
Dクラスの担当として残る教師は、一癖二癖持つ者ばかりで、その代表ともなると、クラス担任の獲得から始まり、担当教員の配置、あれやこれやと問題を起こす生徒に手を焼き…と毎年忙しそうにしている。
もちろん、社も例外ではなかった。
ただ、教師の方は問題なく、今年入ってきた生徒に手を焼いたらしい。
「俺の伝説なんてとうに消えたもんだと思ってたんだが、意外と役にたった」
ひと段落ついたと俺を呼び出し、そう言って笑った。
「ああ、三年目の生徒会長、おめでとう、堂上」
普段とは違った口調で話すのを少し歯がゆく思いつつ、俺は恋人の胸ぐらを掴む。
「……おい」
唇を唇に当てると、自然と唇を開く恋人は、俺の扱いに慣れている。
俺が舌を差し込むとすぐに答えてくれた。
しばらくの間、キスを堪能すると、唇を離し、俺はため息をつく。
「何故そこで、ため息をつくんだお前は」
「なんでって」
「エロいだろ、その顔」
俺は眉間に皺を寄せる。
「鏡見てるわけじゃねぇから、わかんねぇし」
文句を言うと、キスも終わったことだと離れようとする俺の腰を捕まえ、堂上が笑った。
「じゃあ、その隈も知らないか」
俺は目の下に触れて、もう一度ため息をつく。
「これは知ってる。見なくても、なんとなく」
腰に片腕だけ残し、ゆるく俺をとらえた社が俺の顔に手を伸ばす。
目が段々細くなって、からかうような、愛おしむような笑みが浮かぶ。
「せっかくの男前なんだから、ちゃんと寝ろよ」
「男前じゃなかったら、寝なくてもいいのかよ」
目の下を触って、目尻を触り、そのまま頬を滑り落ちて行く手を、思わず片手でとどめ尋ねる。
俺を引き寄せ、甘えるように俺の腹に顔を寄せた社が更に笑ったのが解った。
「俺のためなら、少しくらい寝てなくてもいいが、それ以外は許さねぇよ。ブサイクでも」
わがままなやつだな。
そう思いながら、腹あたりにある髪を撫でた。
他人のことは言えないが、教師にしては明るすぎる髪は、社のもともとの色だ。髪だけは気を配っているらしい社のそれは、大変指通りもなめらかだ。なめらかすぎてワックスなどが効きにくいのが悩みらしい。
俺は、実に三週間ぶりの感触に、更に眉間に力を入れる。
「無理はほどほどにしろよ」
タイミングよく顔を上げてくる社が嫌いだ。
「お前は本当、よく泣くな」
「……好きで泣いてんじゃねぇよ」
「だろうな。好きで泣かれたら、俺、困るしな」
漸く椅子から立ち上がった社が俺をゆっくりと抱きしめ直した。
「お前、泣き顔エロいから」
「恋人が…、泣いてんのに何…」
「俺がお前のこと好きだから」
俺は社の背中に腕を回し、しがみつく。
「あと、お前が俺のこと好きだから」
腕に少し力を込めると、社が俺の背中を撫でた。
「伊坂に聞いたんだけど、大変だったな。会長、もう辞めんの?」
「…やめ、ねぇよ。最後まで、やる…」
「残念。俺、Dクラスにくるのちょっと楽しみにしてたっつうのに」
本当に社は、嫌な奴だ。
そうやって、俺にちょっと頑張らせてしまう。
「ばー、か。卒業、まで、そんなチャンス、ねぇよ」
笑うと、舌打ちが聞こえた。
嫌な奴だな、本当。
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