俺が風紀委員長の設楽に封印解除を頼んだのは、これもまた理由がある。
 その理由は、二つだ。
 一つ、生徒会役員が俺を残して倒れた。
 一つ、設楽ほどでないと俺の封印を解くことが出来ない。
 役員たちが倒れたのは、属性的に相容れないやつが転校してきたからだ。
 そいつはいやに強く、封印も半端であったため弊害が生じた。
 俺は転校生よりも強かったため、他の役員が倒れる中平然と封印式を踏んだ。お陰で転校生は役員たちの見舞いに通いつつも、毎日元気に登校している。
 しかし、弊害は役員たちが倒れるだけでは終わらなかった。
 役員たちのやるはずだった仕事が、一人ピンピンしていた俺に回ってきたのだ。
 生徒会の仕事量は多く、俺はついに暴挙に出た。
 それが封印解除だ。
 俺の封印は、俺と同等または、それ以上の力を持つやつでなければ解くことが出来ない。
 設楽はある分において、俺と同等の力を持ち、この時代には珍しい純血種である。祖は神で、神というシステムが死んでいなければ、神格さえあっただろう。
 混ざったが故に力を肥大させた俺の一族とは、真逆の位置にあった。
 真逆だからこそ、封印しやすい。
 だから、設楽だったのだ。
 しかし、婚姻届にサインをしてしまってから、あることに気がついた。
「おい、結婚って一族は?」
 純血種は純血種を守ることを是とする。
 俺のように混ざったものを一族にすることを良しとしない。
「問題ねぇ。てめぇと結婚できるなら、切れる」
 熱烈な告白をされているような気がして、俺は四本の腕を組んだ。
「まさか、俺のこと好きじゃねぇよなぁ」
「好きだが」
「そうかそうか、好きか……は?」
 初耳である。
 快楽主義なところがある一族に名を連ねている俺が指摘すべきことではないが、設楽は風紀委員長とは思えぬ浮名を流していた。
 純血種でも神は神だ。しかも創世の神となれば、それなりに浮名も流す。それが受け継がれているのは、俺しかり、設楽しかり、自然なことだ。
 だが、ついぞ本命がいるという話を聞いたことがなかった。
 それが俺だというのだから、首も傾げ放題だ。
「好きじゃなきゃ、ヤるっつって迷うかよ。可愛いとはいわねぇけど、最高級の上物を目の前に」
 設楽が俺をどういう目で見ていたかがよくわかる。
 俺は家族にも欲しいところを欲しいだけ持って生まれてきたと言われていた。
 過不足なく黄金律を保つ筋肉、不意に見せる色気は、一瞬の神々しさでかき消される。手を出すには遠く、手を出された日には居もしない神に礼をし、ひれ伏す。美しい、綺麗などという言語化さえおこがましく、何かで表すのは不可能だ。これが、俺の親衛隊長の言である。
 特徴だけ捉えると、地毛は黒だ。それを金に染めてツーブロックである。目は深い紺色で、目つきは悪い方だ。
 ガタイはいいほうであるし、少々厳ついくらいかもしれない。
 それを最高級の上物と、設楽は評した。
「趣味を疑う」
「この上なくいいと思うが」
 俺の親衛隊隊長なら頷いたかもしれない。
 釣り合いという点で言えば、ある意味よくとれている。しかし、これが夫婦かと問われたら、バカを言うなと罵りたい。
「あと、そんなさらっと言われて、好きとか思うか」
「思わねぇな」
「だろ?」
 婚姻届を綺麗にたたみ、懐にいれた設楽は、同意を示した。しかし、後に続けた言葉は俺の信じられない気持ちを裏切る。
「だが、好きなんだから仕方ねぇ。婚姻届はしっかりだしておく」
 俺はこうして、風紀委員長設楽敬治(しだらけいじ)と夫婦になったのだった。




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