生徒会長はチョコレートが好きなのだ。
ほうじ茶にチョコレートってありなのか、なしなのか悩んでしまったが、お客様自身が好きなら問題はない。
「でも、せっかく会長がきてくださったんだから、それは会長独り占めにしちゃいましょう。他の方々知りませんし」
会長が嬉しそうな顔をした。可愛いなぁ…と、思いながら、ほうじ茶をすする。そう思えば、会長はまだほうじ茶に口をつけていない。まだ熱かったようだ。
「それもいいな。ま、てめぇには、ちょっとわけてやるよ」
「ありがとうございます。口止めですね?」
「そうだ、賄賂だ。秘密な?」
「はい、分かりました」
秘密も何も、風紀委員会室にいる風紀委員はもれなく知っているのだけれど、俺は会長の『秘密』を繰り返して約束する。
風紀委員室にチョコレートの個装したものしかないのも、九月だがまだ熱いこの季節に冷たいお茶の一つもないのも、理由は一つしかない。
だから、この『秘密』は誰から漏れることもないのだろう。
会長といっしょになって、ちょっと悪い顔をする。
その直後、携帯の鳴動音が響いた。
会長の携帯だった。
会長は大きな舌打ちをすると、迷うことなく、携帯を手に取ると電源を切った。
「いいんですか?」
「いいんだよ、俺がいいんだから」
そろそろさめてきただろうほうじ茶を一口飲むと、会長が不機嫌そうにそう言った。
「そうですねぇ」
と頷きはしたものの、恐らく、携帯を鳴らしたのは副会長だろう。
すぐに、風紀委員会室に殴り込みにくるにちがいないのだ。
「今のうちにチョコレート持っておいたほうが…」
そんなことを言っているうちに、副会長は会長よりも激しくドアを開いた。風紀委員会室のドアは今年度にはいって、三回補修されている。
「会長!またこんなところで油を売って!ほんとにお邪魔しちゃってすみません!」
「売ってねぇよ。不甲斐ない風紀に文句言ってたんだっつうの」
「そういうのを油売ってるといわないで、なんていうんですか!クレイマーですか!迷惑な!」
副委員長の見事なツッコミを聞きながら、いやいや、ソレ込みで楽しみにしてるのが風紀委員会ですからねとは、口が裂けても言えない。
俺はぼんやりとしながら、副会長と喧嘩する会長を眺めていた。
会長がたまにちらっとこちらをみるので、その度ニコニコっと笑ってしまうのだが、その度、会長も笑ってくれるので、俺もちょっと幸せである。
「とにかく、行きますよ!!」
なんて、最終的には体格のいい書記をつかって引きずっていくのだから、今日も学園は平和だなぁと思うわけだが。
やっぱりちらっとこっちを見て、引きずられる会長。
チョコレートにも未練がある顔もしていた。
チョコレートは後でお届けするとして、俺は、湯呑に残ったほうじ茶を眺めながら、呟く。
「冷たいお茶だったら、のみきれたのになぁ…」
「いや、そういうことじゃねぇだろ、そういうことじゃ」
一方的に罵られるにも関わらず、本気ではないということをしっているからか、それとも会長の可愛いところを知っているからか、けっして怒らないどころか、個装のチョコレートを用意した風紀委員長が俺につっこみをいれてくる。
今度ばかりは副委員長がスリッパを出してこない。
「うーん…だってお茶、もったいないでしょう?」
「だから、そういうことじゃないんじゃないの?」
副委員長までつっこんできた。
俺は知っている。冷たいお茶を冷蔵庫に入れさせないのは副委員長だと。
チョコレートを空いている缶に詰める。
「皆して、そんなに会長応援してどうするんだか…俺だってわかってますし、可愛いと思ってますよ。男の子ですし」
男の子は関係ないかもしれないけど、ちょっと重要かな。
そう思いながら、俺はチョコレートの詰まった缶をカバンの中にいれた。
廊下から会長逃走の一報を聞きながら、風紀委員会室をあとにした。

「会長、明日学校来ると思うか?」
「来ないかも」

ank30-top