タスク×アオ




「俺の恵方巻き……」
「それ、十一月にも俺のポッキーって言われたな」
 俺は恵方巻きを机の上に置いて、真剣な顔をしていた。
 十一月にもみた胡乱な顔をした牧瀬が、ため息をつく。
「それで、バレンタインには何って言うつもりだ」
「俺を食べて?」
「いらねぇ……」
 頭まで抱えて、牧瀬は椅子に座る。俺のやることなすことため息ついて否定するくせに、一応行事には参加してくれるあたりが牧瀬の可愛いところだ。
「で、今年の方角は?」
「南南東らしい」
 これは黙々と恵方巻きを食ってくれるのだろうかと期待して、俺も椅子に座った。牧瀬をじっくり観察するためだ。
「そうか」
 そういうと、牧瀬は皿をもってキッチンにむかったと思うと、恵方巻きをただの太巻きにしてもってきた。つまり、食べやすいサイズに切ってきたのだ。
「恵方巻きの意味……」
「俺は普通に晩飯を食いたい」
 文句を言ってやりたいのだが、恵方巻きのほかに、茶と味噌汁、箸まで2セットもってきたのだから文句が言えない。俺と太巻きを楽しんでくれるようだからだ。
「……これで足りるのか?」
 文句を言えないでいるため、なんだか非難するような声を出してしまった。
「足りねぇけど。豆貰ったから豆食うか?」
「それでも足りねぇだろ」
 俺は仕方なく、もう一本、隠しておいた恵方巻きを取り出す。
「……どうしてもう一本出てくる」
「……どうせ恵方なんて関係なく普通に食うだろうと思って、ワンチャン」
 ワンチャンが発動しなかったのは、牧瀬が味噌汁と茶を用意してくれたからだ。本当に、これのせいで嬉しいやら悔しいやらよくわからない。
 呆れたようにこちらを見てくる牧瀬に、俺はどういう顔をしていいかもわからなかった。
 すると、牧瀬がまた仕方なさそうに恵方巻きが入っているパックを持ち立ち上がったあと、俺の頭を撫でる。慰められているのかもしれないと、非難の目を向けようと少し顔を上げたところで、額に唇が当たった。
「そういう正直なところは嫌いになれねぇんだよなぁ……」
 俺があまりの衝撃に時を止めている間に、牧瀬はそんなことばを落として、再びキッチンに消える。
 俺は、節分という日に感謝した。