スタート地点も見えません


いやに簡単にたどり着いたキャンプ地は早くも賑わっていた。
ビリとは言わないが、それに近い感じで到着しちゃったんだから当然だろう。
「キャンプって言えばカレーじゃないの?」
キャンプ地に到着すると、先に到着していた人たちが、思い思いの方法で調理をしていた。
そして、辺りには美味しそうなホワイトシチューの匂いが漂っていた。
「いやァ?シチューだなァ、普通」
「そうね、シチューね」
この世界にもとからいたレントとファルナは、俺の言葉に首をかしげ、この匂いに疑問を持たないようだった。
「俺のところもカレーだった」
カイリ先輩の意見に、俺は同士を見つけて顔を明るくした。
そう思えば、カイリ先輩の出身地はたまに俺のいた世界と同じ世界なんじゃないだろうかと思うくらい似通っている時がある。
「……カイリ先輩、たまに同じ世界からきたのかなってくらい共通点あるんですけど」
「でも、カイリのとこ、ちょーさっつばつとしてるよ?あ、俺んとこ、カレーとかシチューとかいう名前のものないから。あと、キャンプとかなかったなぁ。野外で宿泊とか、野宿じゃん……食われるよ?」
俺の意見を軽く否定したあと、ちゃっかり自分の世界のキャンプ事情をガルディオ先輩が教えてくれた。
「先輩ンとこのが、殺伐としてるじゃないですか」
「いや、俺んとこ、ほら……イルリラが……イルリラって通じる?」
「いえ、わかりません」
俺が首を振ると、先輩はしばらく考えて、手をたたいた。
「ヒースくんの元の形態みたいなの」
「化物」
カイリ先輩が身も蓋もないことを言ったが、恐らく俺の世界で言うところのモンスターと言われる類の動物のことだ。
俺の世界にはモンスターは存在していないから、動物、もしくは架空の動物といったほうがただしいけれど、たぶん、それで合っている。
「ええと、モンスター…ですね」
「うん、たぶん、それが、イルリラ。すごーく乱暴な言い方しちゃうと、凶暴すぎる動物が闊歩していたから、外出て一泊とか、何考えてるかわかんない行為だったんだよねー」
確かにRPGの歩いていたらモンスターと出会うような世界で野宿とか怖くて俺にはできそうもない。
「ここでは、結界とかあるけど、うちにはなかったし」
そうやって、少しどこか遠くを見ているガルディオ先輩に、俺は少し違和感を覚えた。
そうだ。二人の先輩が自分の世界のことをさらっと教えてくれている。
この二人…というか、大体、帰りたいと言わない人たちは自分の元いた世界の話をあまりしない。
どうしてこの二人が特に大した事情とかではないが話してくれているのかを聞こうとして、俺はやめた。
きっと二人で後輩の国に居残った時に何かあったんだろう。二人に心境の変化があったと考えるのが自然だ。
どういったことが起こったか、また、二人の心境が変わった理由がなんであるかを聞いて、藪から蛇が出てきてはたまらない。
俺は、その蛇が出てきたら蛙もビックリのビビリようで小さくならなければならないに決まっているのだ。
もっと危うくすると、他人の惚気をひたすら聞かなければならないという事態になるかもしれない。
なにせ、ケルベロスも食わない二人なのだから。
「って、ことは、昼ごはんはシチューで、夜はバーベキューかな…」
「いやァ?夜はケバブ」
国が違えば食文化も違うが、シチューでケバブってどういうことだよ。
カイリ先輩が、微妙な顔をした。
きっと、カイリ先輩のところもキャンプ地でケバブを食べる習慣はなかったのだろう。
「ちょっと余裕があればァ、バームクーヘンとか食えたのになァ?」
なんでそんなに回転させたいんだろうか。
もう口に出して突っ込むのも気もおこらない。
なんだかまろやかな匂いがするキャンプ場で、俺はどうしていいか解らない気持ちを抱えたまま、食料の調達に向かうのであった。
なんとこのキャンプ、食料調達も自分たちで行うということになっていたのだ。
もうピクニックという気分はとうにないが、キャンプという気分もちょっと遠のきつつあった。

お隣さんtop