夢は見ない


嫌な夢を見る。
元の世界の夢だ。
俺は、それが夢だったと確認する前に、隣に体温を感じ、身体にいれていた力を抜いた。
また、勝手に人のベッドに入っている。
「…っ……う……」
そして、うなされている。
俺のベッドの侵入者は、俺よりも苦悩が深いらしく、寝ているのを見るたびうなされている。
本人は起きるとケロッとした表情を見せるが、俺とは種類の違う悪夢にうなされ、あまり眠ることを好まない。
「ガーディ」
声をかけると、そいつは俺にしがみつき、しばらくすると穏やかな寝息になった。
おそらく、また、すぐに、うなされはじめるだろう。
俺はそいつの身体を揺らす。
「ガーディ。ガルディオ」
ガルディオは、すぐに目をあけた。寝起きのぼんやりとした目が俺をとらえる。
すぐに近くにある顔が俺の顔に寄せられる。
「今日は誰も捕まらなかったのか」
「……カイリ」
まるで愛しい人間に言うみたいに甘い響きを持つ声に、俺は苦笑する。
「寝るなら他の奴に寝かせてもらえ」
「カイリがいい…」
そういって、足に足を絡めるガルディオは、俺を誘っていた。
「俺じゃなくてもいいくせに」
「そんなことはないから、ねぇ、カイリ」
きっと、他の連中よりは思い入れのある安眠剤であるだろう。
しかし、俺にとってそれは、残酷な仕打ちだ。
「気分じゃない」
「……ちぇー…」
残念そうに引き下がるが、俺から離れようとしないガルディオに、俺は問う。
「寝るのか?」
「寝るよー今日は、久しぶりに、眠いから」
そうか。
俺が頷いてしばらくすると、ガルディオは宣言どおり眠りについた。
「本当に俺だけならいいのにな」
ガルディオに付いてきた、黒と白の獣にポツリと漏らすと、黒い獣がすまなさそうにこうべをたれ、そうだねというように白い獣が喉を鳴らした。
俺はガルディオの背中に腕を回すと、再び目蓋を閉じた。
「深い夜は何も見ずに眠れ」
術言を唱えたあと、俺も寝ることにした。
明日は、ガルディオと一緒に遅刻だな。
そう思った。

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