指だけ、そっと


 人里離れた山奥の男ばかりの全寮制学園には、娯楽が少なかった。
 流行りものは一足遅いゲーム各種に、回線が遅いインターネット、発売が遅れる上に有名どころしかない本に、数の少ない放送局のテレビ、やはり話題作しかないDVDと揃ってはいたし、バカをする友人には事欠かない。しかし、そこの生徒たちは暇を持て余して居た。
 彼らの大半が、恋愛で暇の一部を潰し、何事も遅れがちな山奥で唯一早い噂話に花を咲かせる。恋愛の噂話ともなれば、女ほど姦しくなくとも気になる年頃だ。嘘でも本当でもあっという間に噂は広がる。
 だから、噂話のヒロインである俺も、ヒーローである風紀委員長の七原(ななはら)も、その内容を知って居た。
「俺が七原に手篭めにされて、毎晩アンアン煩いってマジか?」
「俺は伊佐木(いさぎ)が俺を籠絡させて、朝夕所構わずサカってるって聞いたが?」
 俺には元々噂がある。どんな男だろうが喰って喰わせる、下半身快楽主義者という趣味を疑うやつだ。
 そして俺と同じく、七原にも噂がある。そう、どんな男だろうが喰って喰って喰い荒らしポイ捨てという実に華々しく名誉毀損も甚だしいものだ。
 両者ともにこの噂には納得していないものの、火のない所に煙は立たない。少なからず俺は後ろも前も経験があり、選びはするものの身持ちは難くなかった。七原の本当のところはどうであるのかわからないのだが、噂に納得していないということは喰い荒らしたり、ポイ捨てはしていないのかもしれない。
「手篭めなぁ……風紀委員長のお手並みしらねぇからなんとも言えねぇけどなぁ」
「だな。俺も籠絡されるような、お誘いされたことないからな」
 俺と七原しかいない生徒会室で、二人してため息をついた。
 信用されているのかいないのか、生徒会役員たちは七原が来た途端に、あとは噂のお二人さんでと生温い笑みを浮かべて出て行ったのだ。
「お膳立てされちまったし、せっかくだから、本当にするか?」
 俺は生徒会長に用意されたでかい机から、椅子とともに横へとずれ、ネクタイを指で引っ張る。七原が俺の様子を見て、鼻で笑った。
「俺にも好みというものがあるぞ、伊佐木」
「俺の好みからすると、いけるんだがな、七原」
 ボタンを一つずつ外し、重量のない笑みを浮かべる。七原は平素と変わらぬ様子で俺を見て、頷いた。
「そうだな、たまには変わり種もいいか」
 了承を得た俺は、生徒会室にあるソファへと移動する。
「仮眠室もあるが、ソファでいいよな?」
「そうだな、背徳感があって」
 何も後ろめたいと思っていないというのに、面白いことを言う。
「じゃあ、生徒会長様にしゃぶらせてるって背徳感も足しとくか?」
「生徒の模範で楚々とした清潔感がある生徒会長ならあったかもしれないが、伊佐木がやるんじゃ背徳感への冒涜だな」
 俺が考えているより、七原の俺に対する認識は酷いものらしい。しかし、それは間違えていなかった。男のものをしゃぶって楽しいと感じたことはないが、しゃぶること自体はよくあることだ。
 なんの感慨も受けない。
「じゃあ、最短コースでイくか」
「そうだな、最短で一発にしておくか」
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