憂愁の恋人。


昼は、食堂。
ようよう鳴った鐘に、少し頷き、教師が授業の終わりを告げたる。

「飯、筧と一緒に食う予定だから」

そう言って、飯を食うのを断られたと名誉会長からメールが届いた瞬間、色鉛筆を模した箸を握りしめ、隊長は興奮した。
「見たかい、副隊長!」
ネジ式の二つにわかれ、短くなる箸を手に持った副隊長は、同じように興奮したように頷く。
「ええ、まさに、グッドタイミングですね!」
彼らは食堂の片隅、お重を三つほど机の上に起き、興奮を隠せず、コソコソと話続けていた。
「恋とは障害があればあるほど燃えあがるものだ!女房くん以外で!」
ネギの入った卵焼きを青と赤の箸でつまみ、隊長は力説する。
「ええ、女房くん以外です!隊員が女房くんを足止めしている間に、筧くんに言い寄るモブヤンキー!素晴らしい計画です隊長!」
箸を組み立てタコを模したウインナーをそっと口にいれ、さりげなく食べた後副隊長は左手を握りしめた。
「モブヤンキーは名誉会長が仕込んで下さったから、本物だ。リアルさにも事欠かない!」
「しかも、憂愁の君が相手ですから……あ、来ました!」
彼らはそうして、動画サイトの音声発信のみを始めた。

だが、彼らは知らない。
モブヤンキーと呼ばれたヤンキー達があまりの服装違反に風紀委員長に足止めされたことを。
それは、閂愁二が筧史郎と食堂に辿り着いてすぐ、食堂から早々に出て行く一匹狼といわれる不良に仲良さげな様子を見られ『お前らまとまったのか?』と問われ、『そうだよ』と筧史郎が言い放つ数分前の出来事だった。

「え?は?え……?」
「閂さん嫌ですか?」
「いや、え?よ、よろしくお願いします??」

生放送は盛り上がりすぎて、画面が弾幕でしばらく白く染まってしまったのも、そう、数秒後の出来事である。



おわり

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