「なんか薬でも飲まされたんじゃねぇの」
叔父の言葉に、俺は眉間に皺を寄せた。
中学の時だ。両親が飽きることなく時間があるかぎり喧嘩をして、離婚するだのなんだの、そんな時。
家にいたくないと思い、両親が家に揃っているのを見かけるたびに、外に出た。
その頃俺は小さくて、よく絡まれた。
財布の中身がほしい人間から、ただ単に絡みたいだけの人間。たまに、俺にお節介をしてくれる人。
俺はお節介をしてくれる人についていって、その人の仲間になった。
その人と一緒になって喧嘩したり、くだらないことをしている間に、気が付いたら俺はヘッドと呼ばれる立場になっていた。
赤いものを好んで身につけることから、アカなんて呼ばれたけれど、本名には一切ひっかかりもしない名前だった。
チームには目立った美形が何人かいて、その一人に俺はやたらと懐かれていた。
桂木朱春(かつらきあけはる)。俺のせいでシュイロと呼ばれた彼を、俺はアケと呼んでいた。
毎日好きだ好きだと言ってくるアケはかっこいいといわれる類の美形であるにもかかわらずやたら可愛く見えて、俺は困ったような顔しかできず、そうかと答えることしかできなかった。
小さいくせにジジ臭いと、仲間内では好評だった。
受験が迫ったある日、すでに別居していた母から連絡があった。別れたので、俺を引き取った。実家に帰るという話だった。
受験したら全寮制の学校に通うのだし、別に俺と父との仲が悪いわけではない。父の家に受験が終わるまで住まわせてもらうのはダメかと聞くと、父と俺が一緒に暮らすのは耐えられないといわれた。
俺は仕方なく、母と母の田舎に帰ることになったのだが、それはもちろん仲間に挨拶をして帰るつもりだったのだ。
しかし、母も母親だ。
俺が夜な夜な何をしているか知っていた。
そして母は、俺をそこから遠ざけたかった。
結果、俺に有無を言わさず、時間を与えず、引っ越しをした。
携帯は解約され、新しい携帯が与えられ、小遣いが減らされた。
小遣いで溜り場に行くには遠すぎ、俺は連絡の一つもできないで、そのままになった。
受験する学校の変更はできず、そのまま受験し、俺はおぼっちゃま学校へ通うことになった。
おぼっちゃま学校に入学してすぐ、アケを見つけた。
アケのまわりには、溜り場でよく見かける顔もあった。
声をかければよかったのだが、いかんせん、入学した学園のルールが特殊すぎた。
奇しくもやってきた成長期のせいで、背格好がかわってしまったのもよくなかった。
入試時に髪を染めたのもよくなかったのかもしれない。
同じ色に染めなおせばよかったのに、その程度で解らなくなるほどなのかと思うとなんだか染めづらい。
結局、誰かに接触することもないまま、月日はすぎ、挨拶するタイミングを逃した。
先ほど、偶然にもよそ見していてぶつかったアケは、俺を『アカ』と呼んだ。
「早く起きねぇかなぁ」
「あれ?おまえって、会長好きだっけ」
「そうだな…離れて真っ先に考えるほどには」

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