いつもの様子を見ていれば、俺も相原も一ヶ月どころか、自然消滅してもおかしくないと思うだろう。しかし、相原は罰ゲームをするとき、前回も今回も嫌がった。しかも、今回は最後の最後まで抵抗する嫌がりようだ。これは保たないに違いないと思った連中は、意外に短い期間を賭けた。
しかも何の取り柄もなさそうな俺の姿を見ているため、俺がばれないようにというのも無理だと思ったようだ。
最長である2週間は木崎で、木崎はそれを温情だと言っていた。
本来ならば三ヶ月は賭けてもいいとも言っていたのは、俺に対するお世辞かもしれない。
そんなこんなで罰ゲームが開始して三日たった。
俺はあることに困っている。
「起きたら目の前って、なんか……」
三日連続、目が覚めると相原が俺と布団を同じくしているのだ。
これは、相原が布団の中に勝手に入ってくるのではない。相原に起こされた俺が、相原に抱きつき、引き寄せ布団に潜るそうだ。
相原が一日目にそう説明してくれた。俺もおぼろげながら、記憶があるため、否定できない。
「……あ……久住、久住。悪い、起きて」 俺とは違い、相原は寝起きがいいようで、いつ起こしても、少しぼんやりとするものの、きちんと返事をくれる。
「……はよ」
「おはよう。あとごめん」
布団の中に入れられた相原は一日目少しも寝れず、二日目は背中を向けて少し寝たらしい。三日目の今日は、こちらに向いたまま寝ていた。
二日も微妙な睡眠をとらされ、眠かったのか、それとも慣れたのかはわからない。
起きた相原は、一度俺に抱きついてから体を起こす。
双方寝起きの事情が大変正直に感じられても無視して苦行を強いるのは、意趣返しだと相原は言っていた。
これも三日ほど続いている。
「やっぱり、これはちょっとアレなんだけど」
「じゃあ、い……ハツカも布団に引き入れるたびお休みのキスとやらをするのはやめろ。続く限りはやるぞ」
二人して何の我慢大会を強いているのだろう。
仕方なく俺は昨晩用意したお弁当を温め、ハツカに渡さなければと、関係ないことを考えた。
罰ゲームは、何の問題もない。一瀬と会っているとばれることもなく、何日か経った。
「ん……あいはらも、いっしょにねよ」
晩に一瀬を起こすと、毎回そう言われ布団に引きずり込まれる。困惑している間に、一瀬は更に爆弾を落とす。
「おやすみ」
そう言って、キスをしてくるのだ。
最初は何のつもりか聞いたが、何度聞いても変な答えしか返ってこない。まともに喋ったと思ったら、おやすみのキスだと言って、もう一回キスされる。
しかも、物足りないのかと言い出し、濃厚なキスをするから性質が悪い。付き合ってからキスならしたいようにしているが、それ以上のこととなると、まだしていないのだ。悶々とした気分で一瀬を見つめざるを得ない。
一日目はおかげで、一瀬に緩く抱きしめられたまま明日の天気について考え、二日目は抵抗を試みるがうまくいかず、三日目は疲れて死んだように寝た。四日目は慣れてきて、開き直って一瀬の腕の中に潜り込む。
初めて会った時より俺もでかくなったが、それでもなお一瀬の方がでかい。腕の中に入るのは、そう難しくなかった。
今更、一瀬のにおいで飛ぶようなことはないが、一瀬の傍にいると眠い。一日目は慣れないことをされたのと、付き合っているという事実が何かしらの期待を抱かせた。
四日目にして何かしらの期待を捨ててしまうのは早過ぎるような気もする。しかし、相手は一瀬なのだ。
余計なことをすると、馬鹿を見るのはおそらくこちらである。
俺は眠気に誘われるまま目を閉じた。
不意に、では、捨てた期待は一体どうなるのだろうと頭の隅で点滅したが、無視する。
一瀬は期待しなくても、ミソカに言ったようにやりたいときはやるだろうと解っていたからだ。
つづく。
方向音痴と隣の席top