「なんや、どないしてん。ヘッドらしないやん」
足早にあの場から立ち去った俺を追いかけながらカイが尋ねてきた。
俺は立ち止まり、カイに振り返る。
「あの野郎、ドMなんだよ…」
「ええやん。ヘッド真性Sやろ?」
そう、カイの言うとおり、俺はSだ。
Mの本気で嫌がることはしない、真性Sだ。
「そうだな、あの野郎がタチじゃなければ、いくらでもだったんだが」
「え、そんなこともわかるもんなん?」
カイの言うことは最もだ。
しかし、俺はSであり、ゲイであった。
そういうものはなんとなく、雰囲気で察してしまうものだ。
そして、俺はSで、あの野郎が本気で嫌がらないのなら、タチだろうがなんだろうが強行突破も、調教もしただろうが、あれは本当にタチ以外はしたくないタイプである。
なんとなく、察してしまうものだ。
そして、俺は人に組み敷かれるなどまっぴらごめんのタイプなのである。
「解るもんなんだよ。あの野郎が嫌がらなければ、調教くらいするんだがな…嫌がるだろ、あれは」
「いや、そこまで悟っちゃえるのはなかなか」
そうはいうが、ここまでいいよ。と言ってくれるMというやつはなかなかいない。察してもらいたがる。
こちらは少しずつそいつの表情やら仕草やら、雰囲気やらで掴まねばならないため、そういったものには敏感なのだ。
あの野郎のことは知っている。
有名人だ。
一度は必ず殴られるという野郎で、殴られたら何かを値踏みし、気に入ったらそいつを手に入れては、すぐ手放す。
とんでもないM野郎だという噂さえある。
確かにМだった。
俺を値踏みし、ニヤニヤする様はそうとは見えず、なんの気もないふりをするのも上手ではあった。ただ、俺の視線で滲んだ欲を見て、俺はしっかり奴の性癖を察知した。
しかも、Mだというのに、こちらに突っ込まれることをまったく計算に入れていないことも解る、傲慢な感情も察知した。
殴られたい、罵られたい、いじめられたい、それでいてつっこみったい。
身の危険を感じたが故に、罵らないようにした。
だが、それだけではあの場から逃がしてくれそうになかったために、俺は殴って蹴って、罵るしかなかったのだ。
「あー…今度から絡んで来るだろうな…うっぜぇ…」
「なんや、災難やなぁ…ナツ…」