そうのスイッチが入る前に俺のスイッチが入った。
それは、季節外れの転校生が来たからだった。
季節外れの転校生は、そうに馴れ馴れしかった。いや、そうだけではなかったんだが、俺が耐えられなかったのは、そうだけだった。
まず副会長が転校生と仲良くなった。
その次に、副会長の悪辣な趣味によりあることないこと吹き込まれた転校生がれーちとそうに声をかけた。
「七海(ななみ)と倉橋(くらはし)、親衛隊なんだって?」
楽しそうに笑う転校生は俺と違って二人と同じクラスだった。
最初は二人といつも一緒にいることができる転校生がただ羨ましかった。
転校生はいつの間にかれーちをれーちと呼び、そうをそうくんと呼ぶようになった。
れーちとそうと一緒にいたら自然とそうなるだろうけれど、なんだか俺の立ち位置を取られたようでむっとした。
俺はその頃ちょうど生徒会が忙しくて二人と一緒にいることが少なくなっていたのだ。
それでも二人は俺の親衛隊だし、最早学園名物ですらある俺達三人が揃わないことはなかったのだが。
毎日忙しい中見かける仲の良さそうな三人。生徒会は仲がいいものの、三人でいられなくてなんか一人の気がしてる俺。
さみしいのは当たり前だ。
毎日のように俺をぽかんとさせていたそうも、俺が忙しいのを邪魔しないように色々控えてくれていて、なんというか、毎日が物足りなかった。
押してダメなら引いてみろじゃないんだが、結果としてそうなってしまった。
俺は、ただ、憧れの人間に構ってもらえないのが寂しかったし、友人が傍にいないのも寂しかった。だから、目に付く転校生が羨ましかったし、俺の目の前で憧れの人をとったように見えた。
俺は卑怯だった。
そうが、俺を好きだということを利用しようとした。
「えーり。おまえさぁ」
困ったように笑ったそうは、俺の頭を撫でたあと、俺の髪のセットを崩しながらキスをした。
「俺ってお前が思うよりしたたかだぞ?」
キスされて、髪を直されて、更にもう一度キスされて、頬をなでられ…。
なんだろう、この流されてる感。と思った時には、そうが、最後に額にキスをした。
「忘れてやるから、本気なら出直してこいよ」
本気なんかではなかったんだが、あまりにも、そうが、男前すぎて、そんなの、本気になるだろう。
そして俺のスイッチが入った。
「いやね、僕らとしてはいい展開だと思うんだけど、えーり。そうくんが何もしないのをいいことに押し倒して…目のやりどころに困るからね」
俺は、本気になると情熱の人なんだよ。
イタリアンの血を引いているのだから仕方ない。
イタリア人の父を持ち、日本人の母を持つせいか、普段はやたらほめ殺したりナンパしたりしないんだが、本気をだすと、イタリア人もかくやといった口説き落としを始めてしまう。
使えるものは身体も使えということで、体当たりも増える。
「なぁ、会長ってこんな人だったのか?副会長にきいたのとちげんだけど」
「あの人あることないこというからねー俺らも訂正しないけど」
転校生がれーちと一緒になって俺たちを見物している。
話してみると転校生はなんとも、この二人とテンポが似ている。なるほど、俺の目が嫉妬にくらんで馴れ馴れしいとか思ってしまっただけか。
「そうが悪い」
「ちょっとそうくん何したの?たらしこんだの?たらしこんだんでしょ?質が悪いったらー」
「……全部俺のせいになってるあたりれーちのが質わりぃだろ」
呆れ顔のそうもかっこいいとか思っているあたり、なんというか。
恋愛するだけで世界はこんなにもちがって見えるものなのか。
「だいたい、えーりのは勘違いだろ」
「別にいいんだよ、勘違いだろうがなんだろうが。恋愛なんて心理戦だ。俺がいいっつったらいいんだよ」
「会長オットコマエー」
「ひゅーひゅー」
「あーはいはい」
おおよそ周りは歓迎ムードだ。
なんでも、親衛隊には俺たちを見守り隊とかいうものがあるらしいし、俺を口説くそうは珍しいものじゃない。
口説かない方が珍しい。
だから、こうして俺が体当たりしようがそうに必要以上に迫ろうが、よかったね倉橋聡一郎(くらはしそういちろう)といったところなのだそうだ。
「まったく、かっこいいったらないな。けど、こういうのはベッドでおねがいしようか」
そう言って俺の顎をちょっとなでて笑うそう。
そして俺はいつもどおりぽかんとするしかない。
「なんでこいつこんなかっこいいんだろーって感じだね」
「すっげぇなぁ…そうくん」



おわり

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