踊れないぶとうかい


「ぶとーかい……」
「そう。そろそろあるから。みったんもでない?」
「いや、俺、ほら、あれだから。踊れないから」
ユスキラのいうところの『ぶとうかい』がなんであるかは解っている。闘う方の、武闘会だ。踊るほうではない。
わざとそうやってはぐらかすと、ユスキラが唇を突き出して文句を言った。
「えーみったん、俺とは踊ってくれないの?あ、でも、俺も、二人で踊るの知らない。剣舞しかしらない」
「剣舞とか……それでも踊るんだ……」
フォークダンスくらいしかやったことがない俺は、ユスキラの言葉が意外だった。ユスキラはそういうものが得意そうにはみえない。
「うん、踊るよ。収穫祭でねぇ。ちっちゃい子は神様の賜り物だから、神様に近いとかで小さいうちに。大人の剣舞は成人の儀式後の選ばれた人が」
「成人の儀式?」
ユスキラは少し考えるように視線を上げた後、まぁいっかと小さく呟き、あっさりと成人の儀式がなんであるかを教えてくれた。
「大人から、やり方教わるんだよ」
「……身も蓋もない言い方やめてあげて、それ、伝統行事でしょ」
「まぁーね。大人とかはそのあと、神様に奉納するとかで、昔は剣舞捧げてた人は殺されてたみたいだけど」
「ぶっそうな言葉でてきたなぁ……」
「今は、神様のものになるとかで、神事を司るお家の子はね、嫁にささげるんだって、神様に」
「それも……どうなの……?」
ユスキラは首を少しかしげた。
「どういうことなのかは、なってみないと解らないらしいけど、あんまりいい話聞かないなぁ。その後ってやつ。その捧げるのは五十年に一回くらいらしいから詳しいことわからないけど。で、武闘会でないの?踊らないほうね」
しっかりユスキラは地元話をしてくれたというのに、これもまたしっかり話をもどす。
「俺、下から数えたほうが早くてね……」
「あのねーみったん。俺、人より感覚がするどいほうなんだけどー」
「もしもし、聞いてます?ユスキラさん」
いい笑顔でユスキラはさらに続けた。
「あのね、最近、みったん、時々、こぉーい気配つけてくるよね」
俺は背中から汗が流れていくのを感じる。
もう夏だ。たとえ、普通の魔法学校とはちがい、俺達の世界に近いこの学校で空調などという文明の利器が使われていても、汗の一つ二つくらいは流れる。
たとえ、ちょっと寒気を感じていてもだ。
「すごぉーくこわーい気配なんだけどぉー。最近俺、それを感じたことがあるというかぁー」
「いや、気のせい……」
「竜」
「いや……」
「ヒューイ」
「うん、ごめん」
ついには、背中が気持ち悪くなるほど汗をかいてしまったので、俺はユスキラに謝った。
「脅されてるのかなぁ、これ」
「んー……ただ、そんなに好きなら、武闘会で会えばいいんじゃないかなぁって」
「なんで。あの子、魔法使いよ」
「会場があの学園だから」
俺は思わず、机に突っ伏した。
相変わらずヒューイットくんとの関係は微妙なままだが、最近、ヒューイットくんの視線やつっこみが厳しい。なぜ、こんなにも早く感づかれてしまったのだろう。もしかしなくても、俺はかまいすぎてしまったのか。
だいたい、交換日記自体はかなり長い間続いてしまったのだ。人となりを把握されていても仕方ないのかもしれない。
「種族間の壁とかその他諸々で、俺は恋してないことになってんの」
「あ、そうなの?俺も、恋できないんだよ」
「なんで?」
「神様のお嫁様だから」
俺は思わず机から起き上がり、ユスキラをじっと見つめてしまった。
「成人の儀式しなくても」
もう教わらなくても知っているだろうと言おうとして、ふと、何かが引っかかった。
「嫁ってまさか」
わざとらしい咳払いをするユスキラに、俺は目を静かに伏せる。
「それはちょっと、ユッキー的になしだろ」
「なんだよねーだんな様がいいよねー」
「ねー。じゃなくて、大丈夫かよ」
もう一度少し考えるように視線を彷徨わせたユスキラは、今度は少しだけ悩んでいるようにも見えた。
「んー……前の大会で勝ってたら、免除されてたんだけどね。負けちゃったから。まだ時間はちょっとだけあるし、今度は勝つ」
「逃げられないわけか?」
「逃げたくないだけ」
「負けず嫌いだもんなぁ」
ねーと再び二人して首を傾げた。
これを目撃したクラスの人間の一人が、おえ……と言っていたのを発見した。失礼なといえない。気持ち悪いのはよく解っている。
「でも、神事を司るお家の子なのに、よくこの学園これたねぇ」
「両親的には逃げて欲しいけど、色々あってねぇ。だから、この学園通わせて、嫁に行き遅れるか何かさっさと誰かと結婚したり、既成事実作ったりして欲しいみたい」
「じゃあ、親心かぁ」
机に漸く、次の時間に使う教科書を出しつつ、納得して頷いた。
ユスキラも頷き、俺が出したノートに手を伸ばした。
「で、出るの?出ないの?」
ノートに伸びてくる手を抓み、首を横に振った。
「出たくない」




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