eighth effect


ブチギレたら人というのは何をするかわからない。
それは俺が相手でなくても、等しく言えることである。
ただ、ここの生徒に関して言えば、少し違うようだ。
噂通り、俺は呼び出しをされていた。
平均を下回るか、平均ほどの身長の、この学園では可愛いと言われているだろう生徒のうちの三人が、俺を睨みつけながら、喚いていた。
「いい加減にしなよ!」
それはこちらのセリフだと思う。
俺が無視をしているいじめと言われていいほどの出来事は、化物クラスではただのいたずらだ。それはいい。
しかし、俺のように泰然自若に構えていられる化物ばかりではないのだ。
特に、俺の契約精霊は俺のことに関しては猫の額よりも狭い心しか持ち合わせていない。
毎日毎日…いや、毎晩毎晩その狭い心を拡張するがごとく、精霊をなだめている俺にはいい迷惑だ。
転校してからというもの、本当にまともに眠れていない。
大体精霊にしても、主人のことを少しはおもんぱかってくれてもいいものを、あちらも伊達に長く生きてはいないのか、俺の限界ってやつを知っているようだ。
おかげさまで、俺が逆に盛大にブチギレるということはない。
だが、積もり積もったイライラというものはなかなかしつこいものなのだ。
大人しくいわれっぱなしになるはずがない。
あちらもまずいことをしているという自覚があるのか、人気のないジメジメとした影ばかりが目立つ校舎裏に呼び出してくれたことだし、俺が少々化け物じみたことをしても問題はないだろう。
何かわめき散らすようであれば、七井の家の力を使うまでもない。
うちの精霊に命令しておけばちょいちょいっともみ消してしまうだろう。
この土地にいる限り、この土地の精霊であり、大地みたいなものであるあいつには勝てないのだから。
負けないことなら出来るかもしれないが。
「おまえらこそ、いいかげんにしておけよ。机でアートすんのも、俺の下駄箱ゴミ箱にすんのも、あるはずもない俺の教科書だのノートだの探すのも、ご苦労さまで鼻で笑ってやれる出来事だが、それが嫌なやつだっている。どっかのヤンキーもどきは花粉症だから花粉飛ぶような花は写真で十分だって文句言ってきてうぜぇし、俺の下僕はやたらイライラして俺の生活に食い込んでくるし…全部ひっくるめていうと、寝不足なんだよ」
そう、寝不足なのだ。
睡眠は割と大事にしている種族としては、大変不本意なことに、だ。
隈が出るようになったら、俺は最終的に、この陰湿って言われるだろうことをしている連中をひとり残らず夜中に怖い思いでもさせて、ノイローゼにして病院送りにしてやろうと思う。
それくらいには、寝不足は大敵だ。
「あと、水かぶせるのは真剣にやめろ。滅ぼすぞ」
森で生まれたせいか、水は嫌いじゃない。けど、同族連中には水をこれでもかと嫌う連中もいる。
俺の場合、水、特に汚水をかぶせられた場合、水の精霊が真剣に騒ぐのでやめてもらいたい。
俺が生まれて、一番最初に話したのが水の精霊であるせいか、水の精霊とは仲がいいのだ。
水の精霊は汚しさえしなければ文句は言わないし、扱いさえ間違えなければ、一度好いたものを嫌いになることはない。風の精霊と違い、移り気ではないのだ。…関心のない振りはよくするが。
「滅ぼすって、どうやってやるっていうの」
今度は逆に、俺につっかかってきた連中が笑った。
疑問に思うのなら、少々怖い思いをしてもらっても、教訓や悪夢として体験してもらってもいいかな。という甘い誘惑が俺の心の中に芽生えた。
化け物じみたことはするなと、口うるさいワンコヤンキーに言われている。
精神的に攻撃するのならばいいから、口で言いまかせておけとも言われている。
しかし、この程度の連中のために頭を回転させて楽しいと思えるほど、俺は高尚な趣味をもっていない。
「こうやるんだよ」
ニコリと笑うと、下駄箱に生ゴミなどを突っ込むから、夜な夜な生ゴミを処理してくれ、仲良くなったネズミたちが、どこからともなくやってきて、足元を走り回る。
まずは一匹、俺を睨みつけているため、気がつかない。
次第に増えるネズミ、俺の出した人には聞こえない音に反応して騒ぐ鳥、虫。 俺とは長年の付き合いのある蜘蛛まであたりを這い出した。
特に、長い年月ともにし、眷属となっている蜘蛛なんて恐ろしいでかさがあるし、明らかに毒蜘蛛といった風体だ。
キレイさ、可愛さがウリである連中に耐えられる仕様ではない。
「な、何…!」
「……そこの蜘蛛、噛まれたら一分と持たないぞ?」
「ま、まさか、あんたがこれ…!」
「してるっていったら、どうする?」
たぶん、ゲテモノ飼ってるって噂が出るんだろう。
しかも、そのゲテモノけしかけるとか。いやいや、飼っているというか、下僕だから。精霊もそのうちのひとりだからとかいったら、同列にするなって怒られるだろうが、俺にとっては同列である。
けれど、あの精霊はえらく手間のかかる下僕で、そこが可愛いとはちょっと思っている。今の状態では、ただの迷惑だが。
「ば、化け物…!」
そのとおりなので、傷つかない。
むしろ、人間の方がよくやるなと思うこともある。
もともとは人間であるのだから、余計に。
俺は顔に笑みを貼り付けると、そのご自慢だろう顔に手をかける。
「その化け物に手を出すお前らが悪い」
このあと、何故かこのとき俺を裏庭に呼び出した連中から、えらく熱心な目で見られるようになり、精霊の夜の暴走が激しくなった。
いや、まさかの吊り橋効果と俺の色香に惑わされるとはおもってなかったのだ。
特に色香については、思い出しても痒い演技でつくってやった部類の笑みからのものだったのだから、それは思ってもみないだろう?
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