夏と放課後と隣の席3
あいつがなかったことにしようとして、笑う。
悲しそうに笑う。
本人は気がついていないから、タチがわるい。
気にしないわけがない。
怒って呆れて、促すと、ただ泣きながら好きだといってくる人間を、誰が忘れられるんだろう。
頬から外された手は、あいつに握られたまま。
忘れてくれといって、見たこともない、満足げな顔で笑うものだから。
誰が忘れてやるかと、俺はまた、眉間に皺を寄せるしかない。
「言うだけ言って、すっきりってか、テメェ」
中途半端に振り回された俺はどうなる?
気がついたら、視線があいつを追っている。
毎日、あいつのことを、知ってしまう。
泣くほど好きなら、もっとがんばれよテメェ。
何度も何度も好きだと言うくらいなら、無理矢理通すくらいの根性みせろよ、クソが。
中途半端なんだよ。
…俺も、勢いに流されてとかいえねぇだろうが。
中途半端で、好きだなんてはっきり思えねぇだろうが。
俺は握られたままの手を振り払って、あいつの手を落とす。
「とりあえず、一発殴らせろ」
いうと同時に、あいつの頬を殴る。
きょとんとした顔で、反射的に左手で俺の右拳を捕らえたあいつがむかつく。
「あ、ご…」
謝られる前に口を塞ぐ。
「そういう…」
口を塞いだ左手が熱い。
「そういう身勝手なとこが」
思わず俯く。
「腹立って、好きで、たまんねぇんだよ…!」
言ったと同時に、左手と右手をあいつから離して、ポカンとしたあいつを殴る。
今度は間違いなく当たった。
ざまぁみろ!
「…惚れ直すわぁ…」
……ばーか。
end
方向音痴と隣の席top