「なんで、んなもんに入ってんだよ…」
呆れたように鬼怒川が呟いた。
蓋をあけると、それは良く、ソースやドレッシング等が入っている容器だった。蓋を開けるまでは、妙に柔らかい容器だなとは思っていたのだが。
「飛ばして遊べ…と」
「遊ぶなよ…」
ため息までついた。
俺は知ったことではないと容器を握る。
蛍光ピンクのドロドロした液体が飛び出して、容易に鬼怒川にかかる。
わざと顔を狙ってみたのだが、蛍光ピンクじゃなくもっと透明だったらやばかったかもしれない。
そんな掛かり方をした。
「…まず顔から狙うってのはどういうことだ…」
「そういうものかと思って」
そのあとは簡単だ。
胸元に半分たらす。
熱で液体が緩むものだったらしくどんどん下へ下へと薄い布を濡らし、鬼怒川を濡らすそれらを眺め、微妙な顔をしている鬼怒川を眺め。
残った半分を、ナースの衣装についていた針のない注射器に一部入れて、残りを下半身にかける。
その際に、ブーツに飛び散ったのが、何かエロかった。
「…ベッタベタで、きもちわりぃ…」
「だろな」
俺はベタベタになってしまった足をからずるずるとローションをぬりたくり、太ももの内側から鬼怒川の下着に手を伸ばす。
「にしても、ラインがでるとかいう理由でこれを着用させられたとか聞いたときは笑ったが、こういうことするには楽だな」
「…こういうことするために履いたんじゃねぇよ。せがまれて履いたんだっつーの」
たぶん、中途半端に抵抗した挙句、ため息をつきながら履いたんだろう。Tバックとはおそれいる。
その話を聞いたのが、俺がはじめてナース姿をした鬼怒川を発見して笑っていたときで、その話をきいてさらに笑わされたのも記憶に新しい。
厳重管理にも関わらずパンツがなくなり、そのままそれを着たまま競技して帰寮までしてしまっている鬼怒川は色んな意味で図太い。
俺は布のたりないそれを脱がせ、手につき俺の体温に馴染んでしまった蛍光ピンクをケツの穴に擦り付ける。
鬼怒川が少し抵抗するように身動ぎした。
「動いてんなよ」
「動くだろ、流石に」
「ここも濡らしたほうがいいよなぁ?」
「なぁ、じゃねぇよ。何したいかは…ナニだろうが…はぁ…」
ため息つかれた。
なんの抵抗もないのをつまらないと取るか、期待と取るか。
期待してんのってイヤミを言ってやれないほど、鬼怒川は呆れた様子だった。
ほぐす作業も呆れた顔の似合わないナースにやっていては、萎えるなんてもんじゃないが、盛り上がるかなえるかは問題じゃない。
「こんな格好でも感じるもんは感じてんの?」
張り付く布を押し上げて、乳首が立っているのもさることながら、男の一番正直な部分がスカートにテントを張っている。
こちらを見ていなかった目が、ゆっくりと狭い幅を流れる。
俺を目の黒い部分に写した鬼怒川のため息が、熱がこもっていやらしく聞こえる。
「…条件反射」
鬼怒川が口角をじわりと上げた。
まるで、それがどうかしたか?というような挑発的な態度に、俺も同じ顔をしたに違いない。
「……今、指が二本入ってんの、わかるか?」
「……さぁ?」
トボけたくせに、視線が揺れた。
俺が指を動かしたせいだ。
「二本だろ?」
「…最悪だな」
俺は鼻で笑うと、指を抜く。
放置していた注射器を少しだけ押して、ローションを零すと、注射器に申し訳程度にローションをつける。
「さて、これをどうするつもりか、わかるか?」
「……わかりたくねぇわ」
わかっているのだろう。解っているからこそ、鬼怒川が不機嫌そうに眉間の皺を作った。
「これ、プラスチックじゃなくてガラスだぜ?」
「…これだから、金持ってる奴は…」
呆れた鬼怒川は、それでも俺から視線を外さず、足をだるそうに持ち上げて、俺の肩に乗せた。
かなり辛い体制だとおもうのだが、鬼怒川は笑った。
「それ、イれてくれんだろ?」
ひどいナースが、えらく色っぽいナースに化けた。
肩にのった足を下ろして、ゆっくり注射器をいれてやると、鬼怒川が一瞬息を詰めた。
男の指二本よりも細いそれは、冷たかったらしい。
それでも、さっきまで俺を見なかった鬼怒川が俺を見たまま口を開く。
「…、…それからどうしたいんだ?」
「せっかくの注射器だから、こうだろ」
ゆっくりと、液体を中に流すと、鬼怒川が焦ったような顔をした。
「もしかして、感じる?」
「……さぁ…?」
注射器本体を液体を押し出しながらゆっくり根元まで入れてやると、流石に何も言えず鬼怒川は浅い息を何度か繰り返した。
「じゃあ、これは?」
そして俺は、残りを勢い良く注射器から射出させる。
「…ッ、ァ…?」
自分で何が起こっているか一瞬わからなかったらしい。
何かが出てきて中を刺激された鬼怒川の声色が戸惑う。
「意外とこういうの好きだったりするか?」
「…しねぇよ、ばーか…っ」
馬鹿と言われる前に注射器を抜き挿しする。
そして鬼怒川の姿を改めてみる。
ケツに注射器を差し込んだまま、チンコも乳首もおったてて、ぼんやりとする姿がエロすぎる。
「…スカートは濡らすんじゃなかった」
「……ハァ?」
「濡らしてなかったら、濡れてたろ?」
「……鬼だな」
喉で笑ってやると、普段鬼と呼ばれる男は腕を動かそうとしたらしい。
後ろに回され、手錠のせいで動かすことができないために、金属の擦れる音だけを響かせ、困ったように笑った。
「…なぁ、早くくれねぇの?」
何を?とは聞かない。
あえてとぼけて、注射器を抜くと、忘れがちのカバンから入っていてはならないおもちゃを取り出した。
「……」
風紀委員長様は何も言わなかった。
普段、この手のものを没収することが多い、風紀委員長様も、まさかここで俺のカバンから出てくるとは思っていなかったらしい。
「年齢制限…」
「金持ちのヤンキーってなんでも持ってんだなぁ」
巻き上げたわけだが。
未使用品であるそれを、パッケージから取り出す。
可愛いパステル五色展開!という踊り出しを見ながら、今日という一日だけで何度も見たピンク。…のローターを取り出す。
「可愛らしいもんだろ、これくらい」
「…かわいかねぇよ」
それがほしいんじゃねぇよ。といわれたようで、少し俺が焦る。
焦れたのだろう。こちらを睨んでくる鬼怒川の目に欲望が滲んでいる。
鬼怒川は潔いというのだろうか。こうなってしまったら、俺を楽しませ、自分自身を楽しませる姿勢というやつを貫く。
ある意味男前過ぎる。
「なぁ…それ、後でつきあうから……くれよ」
「何を?」
聞いてしまったら、負けだと解っている。
わかっていながら、思わず聞いてしまった。
しまった。という顔をした俺に、鬼怒川が皮肉っぽく笑う。
「古城の、ナニ」
俺が何をいうべきか、いや、いうよりももう本当にやってしまおうかと考えているうちに、鬼怒川が追い打ちをかけた。
「…蓮、来いよ」
いつだって、俺は鬼怒川のそういうところにかなわない。