悪魔でシルバー8



御堂が繰り返す。
好きだと繰り返す。
言われなくてもなんとなく感じていたことだ。
それでも、すぐに抱きしめて、俺も好きだと言っていいはずだった。
けれど、俺の頭は、急に冷えた。
御堂はこれで、俺に振られると予感しているようだが、俺は御堂に同じ方向で好きだと伝えることができる。
しかし、果たしてそれが御堂にとっていいことなのかと考えないではない。
告白を促したのは俺だというのに、俺は迷う。
自分自身の苛立ちと、都合で、御堂を促したというのに、本当に自分勝手なことだ。
御堂にとってそれがいいか悪いかは俺が判断すべきことではない。
御堂が決めることだ。
恐らく、俺は御堂に拒否されることが嫌なのだ。
海外にまで逃げて、御堂が云々と、笑わせる。
気持ちを押しつけるのはいいことではないし、ぶつける必要もない。理由をつけて逃げるのも、そう悪いことでもないだろう。
ただ、気がついてしまうと、自分自身に嫌気がさす。
正直に言えばいい。
両想いだ。
怖がられるのが嫌ならば、そういった欲求を隠せばいい。
できるだろう。
無駄に年をとってきていないだろう。
自分自身に言い聞かせ、手も伸ばせずに、ただ、御堂の声を聞いた。
御堂と同じくらい、好きだと言って抱きしめたい。
けれど、それと同じくらい、俺の小さい度量が邪魔をする。
「俺の、前にいないなら……もう、いい。振られても、おまえが、いないなら、俺の前で、誰かのものにならないなら、もういいから」
「御堂」
「早くどっか行けよ」
「御堂……」
「行けよ!」
既に俺を諦めてしまった御堂に、俺は手を伸ばす。
御堂に触るまで、何度もその手を止めようとした。
触って、御堂が僅かに震えているのに気がつき、俺はやっと御堂を抱き寄せる。
「なん……」
「俺は、お前が思うほど、いい奴じゃねぇし、結構卑怯だし、自分勝手だ」
俺の腕の中で何もできない御堂を抱きしめて、俺は、言葉を吐き出す。
言葉を吐き出しながら、決意する。
御堂に、嫌われてもいいように、嫌われないように、自分自身の欲求を隠せるように、これから何が起こっても、御堂に手を伸ばす覚悟をした。
「お前に嫌われるのが、嫌だ。本当に嫌だ。海外に逃げるくらい嫌だ。ずっと一緒にいて、その瞬間味わうくらいなら、また逃げるくらいわけねぇわ」
それでも御堂の顔を見ないように、腕の中に隠して、俺は続ける。
「好きだ。そういう意味で、好きだ」
「……うそつくなよ……」
御堂の声に力がない。
あれほど振られ続け、そして、告白もしてないのに俺に逃げられたのだから、当然だ。
信じられないのは、当然だ。
「ついてねぇよ。本当に好きだっつうの」
「だって、くどう……」
「なんで宮藤さんがここで出てくんだよ。関係ねぇよ。俺が好きなのはお前だっつってんだよ」
「うそだ」
「……嘘でいいのかよ」
俺はわざと腕をゆるめる。
御堂が俺にしがみついた。
「いやだ」
「なら、素直に信じとけよ。俺はもういわねぇからな」
「……ケチくさい」
もう、御堂と同じように、言ってしまったのだから、俺は迷わない。
迷わないことに、した。
「御堂、好きだから、俺とつき合えよ」
「えらそう」
「いいじゃねぇか。多少強引で」
「……しかたねぇから、つきあってやるよ」
「人のこといえねぇよ」
もう一度抱きしめて、ふと、俺はあることを思い出した。
「そう思えば、お前のジンクス知ってる?」
御堂が小さく震えた。
また暗いことを考えているに違いない。
「おまえに告白された奴、うまくいくんだと。しかも破局もしねぇって」
「………俺の知ってるのと、ちょっと違う」
「俺の知ってるのはこれだからな。俺、御堂に告白されたから、一生もんだわ。儲けた」
シャツがあっと言う間に湿気た。
「つが、つが……っ、おまえ、いがいと……、ばか、な」
「お前が思ってるよりはな」
また鼻水だな。
そんなひどいことを思いながらも、俺は御堂の背中を撫でた。
明日、御堂にもう一度好きって言ってやろうと思いながら。



おわり。



悪魔でゴールド
都賀のことが好きで堪らない。



悪魔でシルバー
これから理性は平気か…?



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