「じゃあ、お前、明らかに遊びなれてるわ、すぐ恋人放り出す仕事についてるわ、恋人の大事に姿がなさそうだわ、人苛めて遊んでる男のどこがいいんだよ」
「そんなん、お前だから」
小気味良いほどの即答だった。
「そうだよ、お前だからだよ」
不細工な顔になってもまだ、納得がいっていない御堂に即答のご褒美も兼ねて俺は一つの提案をする。
「お前が好きって証拠に彩華(さいか)って呼ぶ許可やるから」
一瞬不細工顔がはっとしたが、次の瞬間には更に不細工になった。それは少し不機嫌なようにも見える顔だ。
「……海外じゃ、皆ファーストネームだろ」
「そうだな、じゃあ、俺も御堂のこと新(あらた)って呼ぶから」
「……それも、普通だろ」
証拠にするには薄いといいたそうである。しかし、海外では俺の名前の漢字など知らないだろうから、別にいいと思っている節があった。こちらでは親しくてもあまり呼ばれたいとは思わない。華のように彩り鮮やかに生きて欲しいという願いであるそうなのだが、もう少し男らしい名前を付けてもらいたかった。
「お前に呼んでもらうことに意味があるんじゃ駄目かよ」
「駄目じゃ、ねぇけど」
「証拠になんねぇ?俺三ヵ月後も半年後も物好きにも面倒くさくて思い切りが良すぎるくせに何もできねぇ魔法使いのこと好きっつうか愛してる自信あるぞ」
ここまで俺に言わせておいても悩むから御堂は面倒な男なのだ。当然のように面倒だと思う。しかし、俺は御堂と同じように逃げる気もなければ手放す気もない。
「じゃあ、なんだ?身体だけで俺がお前に繋げられるほど、俺は安いのか」
「……打つ手なしじゃねぇか」
両手の間でしょげた顔をした御堂が、本当に情けなく憐れで可愛いものだ。こんな状態であくまで俺に一生懸命なのも実に好感が持てる。
「そうだろ?だから、お前、その身体使う行動力、別に使っておけよ。俺みたいなクソ野郎あしらって土下座させるくらいのスバラシイ男になって、手玉にとりゃいいんだよ」
それくらい言うと、漸く御堂が笑った。俺は手を離して、その笑顔を堪能する。
「自分でクソ野郎ってお前、クソ野郎だけど」
しばらく御堂は笑い続け、俺の見つめる中、すっきりした顔でこういったのだ。
「確かに、そっちのが、性に合う」
「だろ?」
高校時代の前向きすぎる御堂が顔を覗かせた気がした。少し懐かしくなり、目を細めると、再び御堂が何かに気付いたらしい。はっとした顔でこう付け加えた。
「きょ、興味ねぇわけじゃ、ねぇからな……!」
何のことだよ、こりねぇなと答える前に俺は唇を塞がれる。
その唇はすぐ離れることはなく、俺の口の中で舌を十分遊ばせた後に離れていった。天国という名の地獄が見えるようだ。
「……何処でこんなん覚えた?」
「この前、都賀……彩華がやっただろう」
恐るべき学習機能である。
俺は一瞬の間にありとあらゆる可能性を考え、信じてもいない神様に祈った。
「浮気すんなよ」
「しねぇし、てめぇこそすんなよ」
睨みつけてくる姿は、美形だけあってなかなか怖い顔をしているが、その男前な顔のせいで俺も誰かにいいように誑かされないか不安である。うまいことのせられてまかり間違ったりしてしまう可能性はかなり低くとも心配だ。
俺の不安が訪れると共に、御堂の不安は一時退却したのだろう。御堂が立ち上がろうとして足を崩した。
「立てねぇ……」
呆然と呟いた御堂に、不安が吹き飛んだ。さすがに情けなさ過ぎて、こんな男俺しかなんとかできないという気にさせられてしまった。
他にも引っかかりそうな人間はいるだろうに、そんなことを思わせてしまう。まったく難儀な男だ。
「正座なんかするからだろ」
笑ってやると、薄暗がりに慣れてしまった目に不満そうな顔が飛び込んできた。
まったく本当に難儀なやつだ。



おわり



金メッキ
四ヶ月ほどでちゃんと再会してくれた都賀に感動していたら、うまいことのせられ誑かされぺろりと頂かれてしまった。
やはり都賀以外はとてもじゃないが無理だと再確認。



銀メッキ
メッキはげはげで四ヶ月後に御堂をペロリ。
本当に自分磨きをしていた御堂に手玉に取られることはなかったが、内心、更に人気者になっていて面白くない。



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