可愛すぎて困ります。


「兄上、人の心折るの大好きだよねー」
「人の心を折るのがすきなんじゃない。ある一定の人間の自尊心をシュレッダーにかけるのが大好きなんだ」
どっちにしても質が悪いおー。
なんてパソコンでひたすらタイピングしながら、なんとなく聞いてました。
那須兄弟の会話はいつも最低です。
これが、聞いてないとおもっていっているのなら可愛げがあるものを、聞いていると知っていて話してるんだから、本当に最低。
「あ、トモちゃん、タイピング間違えたけど、へーきよ。今の生徒会にはいないからねー、兄上が心折りたい人いないからねー」
それは安心していいってことではないけど。
とりあえず、俺じゃないし、俺の周りじゃないんならいい。
「そう思えばさ、兄上嫉妬とかする?」
なんだそれ俺が聞きたいなぁ。と思って、手を止める。
後ろから副会長の手が伸びて、エンターボタンを二回押した。
無駄に色気があって、悔しいです。
ドキッとしました、畜生!
「こんなに好かれてるんだぞ?今は、する必要がない」
その手が俺の肩に乗ったかと思って滑って、しなだれかかってくる。何この人、心臓に悪い。
「今はってことは、昔はしたのね?」
こうちゃんは追求の手を緩めない。別に、追求してるつもりもないんだろうけどね。
この兄弟はいっつもこんな調子だし。
「したした。橋上は、俺のこと苦手だったもんな?」
面と向かってそうおっしゃる。
いい性格です、副会長。
未だにタイピングを再開できないまま、俺は画面を見詰める。
とりあえず、流すように文面を見詰めることにした。今年度クラブ別予算…と表題を読むのことはできるんだけど、那須兄弟のせいで、内容は入ってこない。
「橋上は上手いこと演じているから。外見に見合う性格に見える。お陰で、おもてになる。俺は気が気じゃなかったねぇ」
「余裕そうに見えて、余裕じゃなかったもんねぇ、あのときの兄上。非常にかわゆらしかったですよん」
「…マジで?」
もう、タイピングも読むのも忘れて、那須兄弟を振り返り会話に加わった。
だって、かわゆらしい副会長ですよ。
この憎らしいまでに余裕で、俺に色目つかいまくって、心臓に悪い、しかも性格も悪い副会長ですよ? かわゆらしいとか。kwsk!!
「ストレスで5キロ太ったからな」
「それ、カワユスに繋がらないから。それと、5キロ太った割には全然太って見えなかったから。さわり心地すら変わらなかったから」
「じゃあ、内臓脂肪か?」
「いやああ!中年じゃないんだから!なんで、うら若き男子が!いやあああ」
「トモちゃん地が出たら、すごく残念よね」
ははは。とわざとらしく笑うこうちゃんは、副会長の可愛らしさを語ってくれた。
副会長は、自分のことをいわれても何かたくらんでいない限りは邪魔をしない。結構どうどうとしたもんだ。
「『避けられることが辛いとは思いもしなかった』ってね。へこたれてたよ。かーわいいよねぇ。俺は避けられても追い詰めるから、兄上って可愛げあるなぁって」
「そうだな。お前をみていると、俺はまだ可愛げがあるように見えるよな」
「そうそう。兄上、好きな人にはなんだかんだ、弱いし甘いもの。可愛いもんだよねー」
好きな人にはってとこ強調された気がするけど、いいんだよ。俺、愛されてるっぽいこと言われてるから。
ていうか、こうちゃんよ。避けても追い詰めるって、もう、死にたくなる領域なのでは…。
「さてと。たきつけたことだし、お邪魔にならない程度にしとくよん」
そんなこといって、こうちゃんは俺と副会長を二人きりにした。
たきつけたって…そんなでもない気がするんだけど。
「…なぁ、智樹」
あ、副会長をたきつけたのか。
しなだれかかったまま、副会長はマウスに手を伸ばした。
マウスはファイルを開いて俺のやりかけの仕事を保存した。
そのあと、基本動作を無視して、俺のノートパソコンの電源を、コードを引っこ抜くことで落とした。
「俺は、見栄っ張りなんだ」
ぷつんっていって切れたノートパソコンにすらやきもちやいてたなんて、俺は知らないし、それになんとなく気がついたこうちゃんがからかってたなんて解らなかったけれどね。
もう、この兄弟わかりづらい。
見栄っ張りって言われてもさ。可愛いけれど。
可愛いけれど。可愛いけれど…!
恋人が可愛すぎて、困ります。
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