「晃二に、会いたい」
呟いた。
会場にはカップルだらけ。
もちろん、一人できている奴らだって多いけれど。 目に付いてしまうカップル。
恋人のイベントと思われがちなイベントごとは、大抵ライブがある。
いつもそんなとき、晃二はライブに来ない。
そういうスタンスだということは解っているし、ファンのために歌う場所に行きたくないという本音なのか建前なのかわからないことも言っていたので、ライブにきたらきたで、慌てるのだが。
もうすぐライブは終わって、打ち上げ。
打ち上げ出ずに帰っちゃダメだろうか。
ケイさんに尋ねると『俺は抜ける。イイ子がまってることだし』と微笑まれた。
そう思えば、十夜がライブ会場にはきていた。狭い箱の中、目立たぬ位置に立っても目立つ幼馴染は、ナンパされて断っていたのを見かけた。
イイ子か…たしかに、ちょっと真面目な十夜はイイ子かもしれない。
十夜いいなぁ…と羨みながら、他のメンツに聞くと、上手く抜けれるなら、オッケーというお許しを頂いた。
上手く抜けるのは、至難の業だ。
あまりしゃべらないし、しゃべっても喋りがトロイうえに、ポツポツとしかしゃべらないのに、何故か引っ張りダコで、あんだけ歌ったのにまだ歌わせようとしてカラオケのある場所を貸切にされている。
もういいだろ、眠くないか。俺は本音をいうと眠い。
といったところで、徹夜のテンションはすごい。
皆、24時間耐久のとき仮眠をしたりもしているため、案外元気。
俺は、やっぱり何故か引っ張りダコで、ろくに仮眠が出来なかった。
「あれー番長やん」
「相変わらず、シャレオツーって、何。ケーキくれんの?」
「あまりだけどねん。おいっす、さっちゃん。いつもに増して眠そうねぇ。ぼくちんのココ、開いてますよ」
どうやって抜けよう。どうやって抜けようと、無言でつまみを食っていると、抜けたい理由が何時の間にかやってきていた。
晃二は、俺に挨拶した後、ソファーに座って、太股を叩いて『ココ』という。
ソファーに座っていたミツとサカがワザとらしい口笛をふいてソファーをあけた。
「こうじ」
俺は少し戸惑って、晃二を見詰める。
「遠慮しなくてもいいよほら。退いてくれたし。それとも、野郎の固いお膝はいやかしら?」
嫌じゃないから困るんだ。
「ばーか」
「ひどーい、さっちんひどーい!傷ついた、晃二、ハートブレイク!」
晃二の隣に座って、肩に頭を預ける。
「余計な、こと…しそうだから」
「あら、さっちゃんエロい。それはじゃあ、後でね?…おやすみ」
あとか。サービス精神満点だな、珍しく。
「…ん」
そして、俺は頷いて、意識を手離した。
「ふふ…油断大敵」
そんな呟きを聞きながら。