その日の灰谷さんちの皐さんはちょっと変でした。
いや、ちょっとどころかかなり変でした。
「…さっちゃんさっちゃん、どうしてお耳がそんなにおおきいの?」
「……晃二の、声を、よく、…聞くためだ、よ…?」
首をかしげたのは、耳の上にはえた、立派なふっかふかの黒い毛が生えた耳のせいじゃなくて、たぶん、会話の受け答えはこれでいいのかなっていう疑問からだと思われます。
ええ、たぶん正解です、さつきさん。
「…ふかふか」
そして、その日の俺も随分おかしかったです。
さっちゃんとは、毛の長さも違えば、色も違う、立派なお耳が生えていたので。
さっちゃんがさっきから、指先で触ってらっしゃるお耳がそれです。
触られてる感触はしないんだけど、引っ張られてる感触がある。
んー…髪が引っ張られてる感触が。
「…これは偽物だな」
なんて、ちょっと冷静に判断しました。
さっちゃんの耳の生え際を、そっと確認。
髪の毛にピンで固定されたお耳。
はい、偽物です。
「誰の悪戯かしら…」
ちょっと面白いので外したりはしないけど。
「晃二、どうして、茶色…?」
「あーたぶん、地毛が茶色だか…ら…」
さっちゃんは、心行くまでフェイクファーを触った後、紫の髪の毛の間から生える茶色い毛の耳に疑問をもったらしい。
それに答えて、俺は、誰がこの悪戯をしたのか気がついた。
「兄さまか」
先日、実家からアルバム持ち出してたしね。
俺の地毛が茶色という発言に、はっとして、何か納得したような顔をしたのはさっちゃんでした。
「だから、薄い…」
ああ、うん…。
ちょっとね、一応、腕だの脛だの睫毛だの脇だの…下の毛とか。髪の毛よりは濃い色してる。してるけど、なんていうの?チョコレートブラウン?ちょっと美味しそうな名前してるけど?黒じゃない。ちょっと人より薄い色してるわけだ。
ちなみに、髪はもっと赤に近い茶色。赤毛というには茶色い。茶色というにはちょっと赤い。だなんて中途半端な色。
「さっちゃんは、地毛黒でしょ」
「ん」
今つけてる耳も黒くて毛長なフェイクファーなんだけど。
それを見る前から知ってるんだよね。まぁ、さっちゃん有名人だしねぇ。
「で、この、野郎二人でなんか獣耳つけてる残念な状態はいったいどうすればいいんだろうねぇ」
しかも、平日なんてお構いなしで昨夜は、さっちゃんが挑んできたもんで。
無駄に半裸だったり、全裸だったり。
この状態で寝ているところに堂々と耳をつけにきたとは…。
とりあえず、メールを打つべくとった、携帯電話に表示された日にち。
なるほど、にゃんこの日でござったか。このまま学校だな。
とか思ってるうちに、さっちゃん布団から出ないように、伸ばした手で、近くにあった机から、昨日買ってきたスニーカーのヒモを手にとって、何か真剣になさり始めました。
歯を磨きに、洗面所にいったときに気がついたのですが、やったらハトメをつけて穴あきにされてる俺の獣耳に、きれいに片耳だけ通され、蝶々結びされたスニーカーのヒモ。
黒に蛍光黄緑の髑髏柄がすごく浮かれています。
あとでさっちゃんの首にリボンつけてやろう。とおもった俺でした。
鈴は部屋のキーにつけてあるのとったらいいし。